西の果てで聞く声
ロイの声を聞いて、アレクは思わず苦笑する。
『なんだ?』
「いや、なんか嬉しいことでもあったの? 声が弾んでるから」
『ああ。実はな、かなりの拾い物をした』
「拾い物?」
拾い物とは、なんだろう。
まさか、ロイは道に落ちていた財布をねこばば……、いや、いくらなんでも。
ぶんぶんと頭を横に振る上司を見つめて、ミンツ少尉が溜息をついた。
『どうかしたか?』
「……ロイ、拾い物って?」
『ああ。なかなか面白い、逸材かもしれないな。たった12歳の子どもなんだが、今度私が中央に連れて行って、試験を受けさせる』
「試験って……まさか」
『ああ、国家錬金術師資格試験だよ。双域の、すまないが君の最年少記録、塗り替えさせてもらうよ』
楽しげに笑う声に、アレクは眉を顰めた。
「じゅう……にさい?」
それほどまでに、なぜ生き急ぐ。
君には、まだ選択肢はたくさんあったろうに。
そう告げた老錬金術師がいた。
私は一生を錬金術研究に捧げてきた。これからもそうだ。ただ…研究費用だけが希望とは違う。
国家錬金術師資格試験で出会った老人は悲しげに微笑んで、合格発表の時には姿を見なかった。
アレクには、国家錬金術師になりたい理由があった。
ロイを支えたい。上へ押し上げたい。そのために、必要な存在になりたかった。
そして、16歳で国家錬金術師になった。
だが、12歳で国家錬金術師資格試験を受けるというその子どもは、何をそれほど生き急ぐのか。
ただロイの声だけが、嬉しそうだった。
「……中佐」
『なんだね、双域の』
「その子の、名前は?」
『エドワード。エドワード・エルリック』
エドワード・エルリック。
心の中で呟いて、アレクはその名前を心に刻む。
「じゃあ、中佐が後見役ということ?」
『ああ。君の時と同じく、そう言うことになるだろうね』
一度、会ってみるといい。
そして、中佐は言った。
『あれは、焔の目をしていた』
「焔の、目?」
『何かをしなくてはならない。そのために、国家錬金術師資格を得ようとしている。私はその機会をあれに与える。だが、あれが私にくれるのはなんだろうな?』
なんだろう。
それは中佐にも、アレクにもわからなかった。
西の果てで聞く中佐の声は、まるで子どもが楽しみにしていた贈り物を与えられた時のように華やいで。
アレクは苦笑して返す。
「その焔、中佐に移らないという保証はないですよ」
『巻き込まれないように、気をつけるよ』