01:上に立つひと、支えるもの






「また、ですかい?」
「そう、またなの」
「うへえ、どうなってんですか? あそこの夫婦は? らぶらぶなのか、ひえひえなのか、さっぱりわかんないつうか」
恰幅のいい自分の腹部を、ぽりりと書いてブレダ大佐は眉を顰めた。
「で、お宅の旦那様が駆けずり回る羽目に?」
「ええ。それに」
ブレダにとって昔馴染みな大総統主席補佐官はさらりと、ブレダにさらりと爆弾を落としてくれた。
時刻設定もなく、ただ指向性が強い爆弾を。



「来月には、あなたも参加するのよ。ブレダ大佐?」
「………………………言っている意味がわかんないスけど……ホークアイ大佐?」
「あら、あなたなら言わずもがなだと思っていたけれども。おめでとう、ブレダ大佐。来月にはブレダ准将よ」
「………………………それって、断れないスか?」
「大総統直々の辞令に、補佐官風情が口を挟むことではないでしょう?」
首筋でまとめあげた長い金色の髪からゆるくほつれる後れ毛をさらりと直してから、リザ・ハボック・ホークアイ大佐は微笑んだ。
「直々の、ね」
「…………拝命したくないスねぇ、きっとハボック並みに扱き使われるに決まってる」
まったくそのとおりだとホークアイは内心で思いながら、だが口に出す言葉は違う。
「そんなことはないかもしれないわよ。来月になれば、エドワードくんも帰って来るし」
「だからその話を今したじゃないスか。あの夫婦は遠く離れると、大総統がいじけになって、近くになると些細なことで大喧嘩始めるスよ? どっちにしたって、俺たちマスタング組は大総統の……いや、大総統夫婦の尻拭いに走ってるわけじゃないスか……あ」
不意に中空を見たブレダが思い至ったように眉根を顰めた。
「分かった。昇進早々、アエルゴだ……ヒューズ元帥も出張ってるけど……あっちはハボには向かないしなぁ」
おやおや。
ホークアイはブレダの鋭さに舌を巻く。
まったく同じ台詞を、ブレダの昇進を決めたマスタング大総統が呟いた。
『アエルゴとの駆け引きは、まあ……夫人の君に言うのもなんだが、ハボック向きではないのだよ。もうちょっと物事を狡猾に進められるブレダの方が良いと思う』
士官学校の歴史に残るほどの優秀さで卒業し、主席参謀としていくつかの戦いを乗り越えてきたブレダのような、体躯に似合わぬ狡猾さが。
『それに、他所に出すより、ハボックには内政に従事してもらいたいからな』
最後の言葉が、何を意味するかはあえて考えずに、ホークアイは頭を抱えてしまったブレダに言う。
「よろしくね、ブレダ少将?」
「……………まったく逃げられないんだから」



未だ、目指すものがある。
軍人として最高位を極めたロイ・マスタングの双眸はまだ先を見つめている。
かつて、自分たちは決めた。
この焔の双眸を支えていこうと。
だから、ここにいる。
道はまだ、半ば。
これからも、『マスタング組』として、マスタング大総統を支えて生きていく。



「まあ……給料上がるから、よしとしますか」
「そうね。でも、その給料、残してあるんでしょ? ブレダ大佐、そろそろ結婚したら? いい人、いないの?」
「………余計なお世話です」



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