05:銃の手入れと、
広げられた真白の羊毛フェルトの上に、アレクは一つ一つ部品を並べていく。
てきぱきと。
真白の上に置かれる、黒い物体。
エドは近くのテーブルに座って、ぼんやりとアレクの手際のよさを眺めていた。
「どうしたの?」
「ん〜?」
作業を進めながら、アレクはちらりとエドを見やった。
ただぼんやりと自分を見つめているエドの様子が気になったのだ。
数瞬、言葉を選んでエドは苦笑した。
「いや、なんでもないけどさ……北に行ったとき、アレクに銃の手入れ、頼んだことがあったなぁって」
「ああ、そんなこともあったわね。全然使ってなくって、バネが危なかったわね」
そう言いながら、アレクはバネの具合を確認して。
「あたしはちゃんと手入れしてるわよ? 銃は軍人の必需品だからね」
「…………そうだけどさ」
素早い練成が得意だった自分には、銃は必要なかった。
ただ戦場という不特定多数の敵がいる場所で、武器は多いに越したことはなかったから、ロイに促されてしまいこんでいた銃を持ち出した。
………結局使うことなく、戦いは終わったけれど。
銃の手入れ用に持ってきた小さな工具箱をしまいこみ、アレクは胸を張った。
「よし、終わった」
「相変わらず手際がいいよな」
「………そっか軍事訓練受けてないんだよね、エドは。これって必修なんだよ?」
銃の手入れは、自分の命を守ること。
軍事訓練の時の教官がそう言いながら、銃の手入れ方法を教えてくれたことをアレクは思い出す。
本当はアレクも銃を持つ必要はない。
両の手袋を合わせれば、エドほどのスピードはないけれどかなりの速さの練成を行える。
まして得意とするのは空気練成。相手の意思を萎えさせるほどには威力を持つ。
けれど。
エドワード・エルリック・マスタング大総統夫人を警護して、イシュヴァールにいるという名目である以上、銃は手放せない。
そして砂漠ばかりのこの地で、精密機器でもある銃には四六時中砂粒が入り込む。
それゆえの手入れだった。
だけど、望むなら。
「ねえ、エド」
「ん?」
「ホントはね、銃なんて持ちたくないんだよ」
「………………わかってる」
返された答えは短く。
アレクは続ける。
「誰もあたしたちに、命に関わるような危害なんて与えない。そんな……場所にしたいよね」
「ああ、あたりまえだろ」
エドは穏やかに笑って。
「そのために、俺たちはここにいるんだから」
道はまだ半ば。
アメストリスの軍人がイシュヴァールで銃を手放す日は、まだ遠い。