01:あ、まただ






ほう。
今日、何度目だろうか。
この溜息をつくのは。
アルフォンスが顔を上げれば、窓際に腰掛けた姉がぼんやりと窓の外を見つめていた。
「姉さん」
「ん?」
「疲れたんだったら、今日はもうホテルに切り上げない?」
「……お前が?」
「僕が疲れるわけないじゃない。姉さんが、だよ」
指摘されれば、エドワードの表情が変わる。
「俺が? 疲れてなんていない」
「だけど、さっきから何回も溜息ついてるよ?」
「……なわけねえだろ」
「え、さっきも」
「うるせえ」
頑な否定に肩を竦めて、アルフォンスはそれ以上の指摘を止めてエドワードに背中を向けた。
姉の溜息の原因など、わかりきってる。






『なあ、もしかしてだけどさ』
『ん?』
この街に来る汽車の中で、戸惑いながら姉が告げた言葉。
『もしかして……なんだけどさ』
『うん』
『……大佐って』
『大佐? マスタング大佐?』
『おう……俺の気のせいかもしれねえけど』
言い淀む姉に、言葉の先を促せば。
『……大佐って、俺のこと、しつこいぐらい確認してる?』
なんだ、この『確認』という表現は。
思わず指摘したかったけれど、ぐっと抑えて先を促した。
聞けば最近、気づけば大佐の視線を感じるのだという。
『気づけば大佐がこっち見ててさ。俺……気のせいかなぁと思ってたんだけど、あんまりにも視線が合うし、目が合ったらあいつ、にやりと笑うし』
いや、姉さん。
その表現はかなり間違ってると思う。
むしろ、大佐は微笑んでるんじゃないかな。
そういう言葉を飲み込んで、姉の聞き役に徹するアルフォンスに重ねてエドワードは言う。
『この前の駅で、大総統の見送りだとか言いながら大総統が出た後もずっといたし』
当たり前です。
大佐が見送りたい、というか行かないで欲しいと言いたいのは大総統のすぐあとに出発したあなたですよ、姉さん。
『その前は嫌がらせのように俺に紅いバラを贈ってきただろ? 西方のアレクの所まで』
ツーカーの仲の中佐に薦められた誕生祝のバラじゃなかったかな……あれって。
『もしかして、大佐って俺のこと……見てるのかな?』






姉の言葉に、思わず大佐の思いを教えてしまったた自分。
会話の中で姉は、大佐が自分に好意を持っていることをようやく悟ったようだった。
ごめんなさい、大佐。
言わないで欲しいと、口止めされていたけれど姉のあまりの鈍感っぷりにちょっと腹が立ったのも事実です。
最近僕も分かりました。
少なくとも、姉はあなたの思いに気づいていないけど、あなたに思いを馳せる時が多くなってます。
……思う壷、ですか?
弟として、そのことに少しムカつきますけど、姉のために我慢できる範囲ですよ。






背中越しに聞こえる、溜息。
アルフォンスは声を出さずに苦笑する。






ほら、また。
大佐。
姉さんが、あなたのことを思って溜息、ついてますよ。
でもね。
僕は教えてあげません。
悔しかったら、姉さんを幸せにするって宣言してみてください。
そうしたら、姉さんの溜息の理由を教えてあげてもいいかな……。





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