それは突然の話だった。
その通知書に最初に目を通したのは、古藤だった。
いつものように警救課に出かけ、課長の堂本に先日出動した海難の詳細報告を済ませたあとに渡された書類の束に入っていた通知書だった。
「……なんですか、これ」
「なにって」
堂本は肩を竦めて、ぽつりと言った。
「機動救難隊、うちでも設置する予定がたったからそれに関係したメンバーの選定、始めようかと思って」
「……本気ですか?」
「うん。で、お前のところから推薦できそうなメンバー、見繕ってくれない?」
機動救難隊。
それは羽田にある特殊救難隊の、管区版と言っていい。
既に第7管区には6名の機動救難士で編成されたチームがあり、活動している。古藤も特救隊時代に研修指導で数回訪れたことがあり、その機能性に感嘆したことを思い出した。
それと同じものを、5管に作るのだという。
「ほら、関空に航空基地あるでしょ? だからあそこに付随する形でつくればいいってことになってね。羽田だって航空基地付属じゃない」
「そうですが…」
「お前が選定したメンバーがそのまま機救隊になるとは限らないし、できるとしてもたぶん」
指折り年数を数えて、堂本は両手をそろえて古藤に見せる。
「10年、だね」
今は計画の段階。
予算を上へ上へと申請すれば、下へ下へ予算が降りてくるのに5年。
専門の建物、機材、そして人員がそろうまでに5年。
確かに10年はかかりそうだ。
「で」
堂本は再び肩を竦めて言った。
「それまでにできることをすることにしたんだよ。簡単に言えば、人員育成。10年もあれば、指導者できる優秀な人員を確保して、機救士の卵をピックアップしやすいようにするシステムをつくればいい…そのためのスキルの底上げをしようってことなんだよ」
「なるほど」
たった一枚の通知書ではわからないこともある。
もちろん、現役としても期待している。
だが10年たてば、現役の保安官はほとんど陸上勤務になっている。
むしろ、未来を楽観的予測で推測するよりも。
現状的予測で、自分たちの手で導き出せる方式を作りたい。
珍しく本心を明かさない堂本課長の意思を、見た気がした。
「やってみましょう」
「うん。あ、それから月1で救助研修を行うってことも考えてるんだ。で、講師はもちろん」
びしりと指をさされて。
古藤は小さく笑った。
そういうことなら、一も二もなく自分が受けるであろうことを、この先輩は知っているから。
「わかりましたよ」
「うん。頼んだよ」
また、自分が活かせる場所を見つけた。
古藤はそう思えて、小さく笑った。