002:一対





いっ‐つい【一対】
二つそろって、ひと組として扱われるもの。



その門は、大きく高く、聳え立つ。
「では」
一礼して背を向けた部下に、浮竹十四郎は努めて明るく声をかけた。
「気をつけて、ね」



気をつけて。
それしかなかった。
かける言葉など。
気をつけても、どうしようもないことがあることは分かるけど。
今はそんなことを考えたくない、そう思った。



溜息一つ。
こんなところを、三席の二人に見つかればよってたかって病人扱いされて、場合によっては四番隊に担ぎ込まれかねない。だが、周りには十四郎一人だった。
……と思っていたのに。
「おやあ? 溜息なんかついて、なんかあったの?」
辺りを見回せば、木陰でべったりと寝そべる姿、一つ。
十四郎は心の底から溜息を吐いて。
「春水…少し前に伊勢くんが探しているのに行き会ったが」
「ん? ああ、急ぎの決済がなんとかって言ってたような」
にへらと笑って、春水は身体を起こす。身体を軽く振って、それから手招きをする。
「なんだ?」
「まあ、来いや」
「……」
まるで犬でも呼ぶような扱いに、一瞬むっとしたけれど。
「座れ座れ」
「春水」
「ん?」
「まったく貴様という男は」
「まあま、手を出せ」
言われるままに手を出せば、小さくはない菓子箱が十四郎の掌に置かれる。
「なんだ、これは?」
「さっき十番隊覗いたら、千早さんからお届けものが来てて。んで、お裾分け」
「……それなら」
それなら十三番隊にも届いていた。
玄鵬家の当主は思い立ったように、現世の食べ物を大量に作っては護廷衆に配って回る。届いているのは確認して、穿界門に赴いたのだ。
「なんだ、そうかい」
「だからこれはお前の担当だ。とっとと伊勢くんに食わせてやれ」
立ち上がろうとする十四郎を、春水は声だけでとどめて。
「なんか、あったのかい?」
「……なにがだ」
「おやおや、長年連れ添った相棒を無碍にするのかい」
「………お前を相棒にした覚えは無い」
「つれないねぇ。でもさ、何年も一緒に護廷衆してんだから、十四郎の機微ぐらいはわかるつもりだけなぁ……どうせ、朽木さんちの預かりモノのことでしょうが」
図星をつかれて、十四郎の動きが止まった。春水はそれを横目で見ながら、
「大事な大事な、預かりモノっていうのはわかるけどね。大事にしすぎるのもどうかと思うし。第一」



自分の足で、自分の手で、歩き始めてるのをとどめることはできないよね?
春水の言葉に、十四郎はふと春水の懐に眼をやる。
脇にさす二振りの刀。
尸魂界に二つしかない、二刀一対型斬魄刀の『花天狂骨』。
同じく自分の腰に佩く、『双魚理』も二刀一対型斬魄刀だ。
斬魄刀を与えられた時点で、ヒトは死神となる。
銘の有無に関わらず、他者の生き死にに責任を持たなくてはならない。
それが、死神だ。
そして、春水の言う『朽木さんちの預かりモノ』、さきほど穿界門まで見送った彼女、朽木ルキアも斬魄刀『袖白雪』を持つ、死神だ。



もう、自分の足で歩き始めているのだ。
もう、手を差し伸べるのは最小限にしなくてはならない。
春水の言葉は、十四郎の胸にやんわりと染み込んだ。



「そうだな……少し現世に行かせたから、心配になっただけだ」
「あ〜、じゃあ少しゆっくりできるだろ? ちょっとつきあえよ。いっぱいやろうぜ?」
「ああ。だが、お前が伊勢くんの急ぎの用事を済ませたあとに、な」



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