014:眼帯
がん‐たい【眼帯】
眼病のとき、湿布・保護などのため、目を覆うもの。
彼の基準は、『面白い』か『つまらない』か。
涅マユリが差し出した、その物体には珍しく興味を示したので、隊首会に出席していた誰もが驚いた。
それは、小さな布切れに見えた。
「なんやの、それ?」
ギンが覗き込み、物体に違う気配を感じて眉を顰める。
「悪趣味やわ、気色悪いわ」
「………そうだね、変な気配を感じるね」
珍しく藍染が訝しそうにマユリに問うた。
「これは?」
「更木…隊長に頼まれていたものだよ。眼帯なんだけどね」
マユリが手入れの行き届いた長い爪の指でその物体を持ち上げた。器用に眼帯を裏返し、
「ほら、ここに穿界門の原理を加えてみたんだよ。小さいけれど、この先は無界に通じているんだ」
得意げに自慢するマユリの手で披露される眼帯。
剣八は無造作にそれを奪い取るように手にして。
「お、おい。更木」
「ふん、面白そうじゃねえかよ」
気配を殺す、霊圧を抑えるという作業が何より苦手な剣八は手っ取り早い方法を思いついた。そしてマユリに相談したのだ。
『なあ、霊圧を喰う道具ってねえのかよ』
そうして開発されたのが、その眼帯だった。
マユリに装着方法を聞きながら手際よくつけてみて。
「………いいじゃねえかよ」
「そうかい、じゃあ差し上げよう」
ふんと鼻で笑ってマユリは背中を向ける。
「まったく、技局がこんなものまで開発しないといけないとはね。どうなっているんだか、護廷衆は」
「変」
開口一番のやちるの言葉に、剣八はむすりとして応えを返す。
「なんだ、そりゃ。俺は気に入ってんだぞ」
「変、変だよ剣ちゃん〜、なんかこわいやらしい〜って感じだよ〜」
「………さっぱりわからん」
「なんか剣ちゃんじゃないよ」
珍しいやちるの全否定的な言葉に、剣八は憮然としながら眼帯を外そうと手を伸ばして…止めた。
「やちる」
「ん?」
「慣れろ」
「え〜、外さないの?」
「ばかやろ、俺の霊圧にあてられて、十一番隊じゃあろくに仕事も進まねえって愚痴られるのは勘弁ならねえ」
「………一番仕事さぼってるのは、剣八じゃない」
やちるではない声の応えに、剣八は首だけで振り返り、にやりと笑った。
「なんだ、千早かよ」
「一番仕事が遅くて、滞るというよりも完全停滞するのは間違いなく十一番隊に回った書類だって、春水が溜息ついてたわよ。あの、春水がね」
「はは、そりゃあいいわ」
笑う剣八の顔を睨みながら、千早は座り、腕に抱いた小さなものをそっと下ろした。
やちるが覗き込み歓声を上げる。
「うわあ、ちっちゃい〜」
その声に小さいもの、黒い眸に濃茶色の髪の赤子がきゃっきゃと声を上げた。
千早はその小さな小さな赤子をあやしながら、剣八に視線を向ける。
「ちっとは仕事、してみたら?」
「うるせえ」
眼帯で隻眼となった視線を赤子と一緒に遊ぶやちるに向けて、剣八は小さく呟いた。
「…………名前は?」
「ん? ああ、この子の? 理靜、よ」
隻眼が僅かに瞠目して。
口の端が僅かに上がった。
「……ふん」
「眼帯つけて、少しは使える駒を増やしなさいよ。やちると二人じゃ、隊は動かないんだから」
千早の忠告に、しかし剣八は鼻を鳴らしただけだった。
とはいえ、剣八が眼帯を手放さなくなったのは事実である。