018:贖罪
しょく‐ざい【贖罪】
自分の犯した罪や過失を償うこと。罪滅ぼし。
「へえ、千早姉も悪いって思うことがあるのかよ」
とんでもないいいように、千早は眉を顰めた。
「なんだかその言われようは。あたしが無敵の何にも考えていない人間のようだけど」
「はは」
甘草色の髪をひとしきり崩して、一護は笑った。
「だってさ、ガキんときから千早姉が正しいって思ったら、一切何が何でも逆らうなって、親父に言われてるし」
「………まったく」
「千早姉からそんな言葉が聞けるなんて、思わなかった」
千早は思わず肩を竦めて、
「あたしだってね、それほど無敵じゃあないんだよ。間違いだってするし、反省しても反省しても、同じことを繰り返しちゃうことだってある」
「へえ。例えば?」
これは、我が侵した罪でしょう。
ですが、分かっているけれども、我は屋形さまを、千早さまをお恨み申し上げます。
首にかけられた枷、それに連なる鎖をじゃらりと鳴らして、男は言う。
それでも我は良かれと思って、為そうとしたのだ。
制しようとする者を留めて、千早は静かに頷いた。
いいよ、恨んでいいよ。
父上ではなく、千早を恨んで、ね。
そうすることで、あなたの思いが続くなら。
男の最期の、思いを未だ幼い千早は受け止めた。
男を凶行に走らせたのは、千早。
男を死に追い込んだのは、千早。
それは、千早の意思ではなく、『玄鵬家』の意思だったけれど。
あの日、千早は幼いながらも、選んだのだ。
一生、自分が背負っていくと。
血塗られた、この家名。
玄鵬家を。
「そうねぇ……人を追い詰めたことがあるよ。死にたくなるくらい」
「………なんだよ、それ」
薄茶色の双眸が細くなる。千早は苦笑して、
「だからね、悪いと思うんだよ。誰かに辛い思いをさせることは間違ってる。それは正しいことであっても、正しくないのよ」
「………よくわかんない理屈だな」
「わかんなくてもいいの。正しいことだけでは世界は成り立たない。ようやくこの年齢になって、それを自覚できた。だから……」
正しさだけを見つめて、侵した罪もある。
誰かの悲哀から目を背けて、未来にばかり目を向けてきたから、招いてしまったこともある。
だから、千早は心に刻む。
自分が過ちを犯したことを忘れない。
侵した罪を、いつかは贖わなくてはならない。
そのためにも、まだ生きている。
「よくわかんないけどさ、千早姉。正しいことだけじゃないなら、悪いことも少しは認めれば……いいんじゃねえか?」
「ん?」
「自分が全部悪いんじゃなくて、関わった誰もが少しずつ気づかないうちに、間違ってるんだよ。そういうこと、ねえかな?」
「え」
「大多数に責任転嫁するんじゃねえけどさ」
甘草色の髪が、揺れる。
千早は一瞬呆気に取られて。
やがて、穏やかに笑った。
「一護、あんたってやっぱりいい子だね」
「なんだよ、それって」
「ううん、ホントにいい子だよ」