020:破滅





は‐めつ【破滅】
ほろびること。



最後の一人か、と問われて雨竜は頷いた。
「そうだ、僕が最後の滅却師、だ」



『滅却師など、金銭にもならない。お前が興味を抱くものではない』
返す言葉も許さぬほどに、父は息子の思いを切り捨てた。
『そうだな、そうかもしれぬな。滅却師はもう過去の遺物やもしれぬな』
少し寂しそうに、幼い雨竜の頭を撫でながら祖父は笑った。



世界中に、滅却師はいたという。
迷える虚を、消滅させることのできる唯一の存在。
尸魂界より来る死神ですら、虚を完全に消滅させることはしない。
だが数千年前、一方的な通知に世界中の滅却師は反論する。
今後、虚を滅却することを禁じる。
それは滅却師と尸魂界の長い争いの種になる。
かつては、霊王のもと、ともに手を携えた者たちだったのに。



どこで我々は間違えたのかな。
祖父であり、師匠であった宗弦は悲しそうに笑っていた。
これで滅却師も、姿を消すじゃろうの。
幼い雨竜は涙ながらに訴える。
自分が、継ぐと。
最後の一人になろうとも、滅却師になると。
受け入れてくれたけれども、祖父は雨竜の思いを是とは言わないまま、虚に襲われて命を落とした。
いつでも、辞めていいんだよ。
滅却師として死ぬことはないんだ。
いや、むしろ死なないでおくれ。
そう告げられても、雨竜の思いは変わらず。



滅却師か、と告げられれば傲然と胸を張って応える。
そうだ、と。
消え去ることが決まっているといわれるならばなおのこと。
最後の滅却師として、為さねばならぬことを、為すのだ、と。



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