030:厄介
めんどうをみること。また、世話になること。
「ちょっと姉さん、またぁ?」
妹の苦言に、長身の姉は身を小さく小さく折り曲げながら、にへらと笑った。
「いやあ、行き先が決まるまでのちょっとの間、ね?」
「………って、犬猫を何匹拾ってきて、うちに置いてる?」
「清音〜」
「だめ。聞かない! 少なくとも、もううちでは飼えないからね!」
びしりと告げられては、姉は項垂れた。
「え〜」
「え〜、じゃない! 子猫を6匹もらってくるなんて、姉さん、どうかしてる」
温い視線どころか冷え切った視線が、身に痛い。
「うちを動物園にするつもりなら、ともかくね」
「あ、そっか。そういう…」
「冗談!」
「まったく、安請け合いするんだから!」
怒り心頭をアピールする清音を、苦笑しながら浮竹が諌める。
「まあ、それが虎徹副隊長の優しさ、なんだろうがな」
「けど、隊長! 限度がありますって。6匹ですよ、6匹!」
「………そうだな」
にゃあ、と浮竹の膝の上で泣いたのは件の子猫のうちの一匹。
「よかったというか、悪かったというか……ちょうど我が家で新しい飼い猫を探していたからな」
浮竹家には昨年までかわいがられていた猫がいた。だが、如何せんかなりの年寄だったから、姿を消したことを家族は悲しみはしたけれど、最期の姿を見せたくないために姿を消したのだろう、と納得したのだ。
とはいえ、すぐには新しい猫を迎え入れることはできず。
先日、浮竹家に帰れば妹がぽつりと、猫を飼いたいと呟いたのを覚えていた浮竹が、いつでも引き取り手を募っていると言っていた清音のことを思い出したのだ。
「いいんですか、お願いして?」
「ああ。いつでも連れてきていいということだからな。明日にでも届けるよ」
「………すいません」
深々と頭を下げた三席に、浮竹は微笑む。
「何を謝ってる? 家では猫を飼いたいのだから、この子を引き取れてよかった。だからな、清音」
「?」
「虎徹副隊長を責めるな。副隊長は副隊長なりの優しさなのだろう?」
「…………そうなんですけどね」
生まれたばかりの、子猫。
まだ目も明かない、声だけは懸命に上げていた、6つの小さな命。
ここにいる。
ここにいるから。
ただそう呼んでいるように聞こえたのだと、姉は言っていた。
助けてほしいとか、母を呼んでいるのだとかそういうことではなく。
ただ呼んでいるのだと感じたと、体温の下がった子猫を懐で温めながら、笑んでいた。
「わかるんです、昔っから姉がそういう人間だって」
「うん」
「でも、それに巻き込まれる私の身にもなってください」
「そうだな」
「………文句言っても、拾ってきたのは全部姉が面倒みてるから、なおのこと腹が立つっていうか……」
「清音」
浮竹は仔猫の喉元を撫でながら言った。
「少しは多めに見てあげたらどうだい?」
「………わかってます」
「だけどなぁ、清音」
ぶつぶつと文句を呟きながら清音が出て行ったあとで、笑みながら浮竹が呟いた。
「とはいえ、そんな動物屋敷に一緒に住んでいるってことは、お前も相当『そういう人間』なんだと、俺は思うけどな…おまえはどうだ?」
問われた仔猫は、確かな声で応えた。
「ちょっと、姉さん!」
「ごめん、清音。ちょっとでいいから。引き取り手が決まるまでで」
「…………まったく」
姉に拝まれて、妹は深く深く嘆息してから、背を向ける。
「決まるまで、だからね!」