輝石 07
かつて機械鎧の腕と足を持った少女と、鎧に魂をつなぎとめられた弟は、賢者の石を【錬成】し、等価交換の大原則を無視した錬成によって、手足と身体を取り戻した。
それは20年前。
軍部のヴェールに覆い隠したけれども、人の口に戸は立てられず。
賢者の石の伝説とともに、噂が流れた。
賢者の石を手に入れた錬金術師が、望みのものを手に入れた。そして今、賢者の石は軍部が保管しているのだと。
「今となっては、亡きブラッドレイ大総統に、感謝すべきなんだろうねぇ」
アレクがぼやくように言いながら、書類に目を通す。ロイも苦笑する。
「あの方にそんな考えがあったとは思えないがね」
「え? じゃあ、ロイはどういう考えだったと思ってるの?」
「あの方は…まあ、多分なんだけどな」
決済をすませた書類を決裁済みの書類箱に落として、ロイは一息つきながら肘をつきながら両手を組む。
「軍部を増強することで、アメストリスを富ませることが出来ると純粋に信じていたのではないかと、この年齢になって思えるのだ」
「まあ、そういう考え方をする人は今もいるけど」
「とはいえ、それはあの方の一部分しか見ていないのかもしれないのだが」
そのとき、アレクは不意に気付く。
アレクが軍に入って4人の大総統が生まれた。
キング・ブラッドレイ。
ジェームズ・マッキンリー。
ゲオルグ・クライバウム。
そして、ロイ・マスタング。
そんな歴々たる大総統の中で、ロイはブラッドレイだけを【あの方】と呼ぶ。ちなみにマッキンリーは【狸じじい】、クライバウムは【狐】だ。
ロイにとってブラッドレイはある意味、特別な存在だったのだ。
「………………」
「どうした?」
「ん? なんでもない。あのオジサンがそんな純粋な人間には見えなかったけどなぁ」
時折見せる峻烈な影。
隻眼の男の僅かに【違う姿】を、アレクは他人より鋭い洞察力で何度もかいま見たからこそ、ロイのように素直にはとらえられなかった。
「考えても答えは出ないよ。だって本人がいないんだから」
「………そうだな」
「とにかく、これができるのもブラッドレイ大総統のおかげなんだから感謝しないとね」
アレクがひらひらとさせている書類の、実はとてつもない重い中身に。
ロイは目を細めて、呟いた。
「そう、だな。結果としてエドの入隊も、アルフォンスの国家錬金術師資格取得も、このための布石になったのだからな」
ガシャン。
激しい音と、くぐもったうめき声にナタリアは耳をふさいだ。
両手で耳をふさいでも、音は耳に滑り込む。
ナタリアは背中を手術室につながるドアに凭れ、ずるずると座り込む。
「いやだよ…ハリムぅ……父様、母様………………」
機械鎧と肉体を結ぶ、接合具通称ジョイントは錬金術を内包しているが、神経と機械鎧との間に動かすための電気信号を増幅・伝達するための装置だ。つまり、神経と直接つなぐ必要がある上に、その手術では神経の伝達機能を確認しながらのジョイントになるために、ほとんど麻酔が使えず、患者は想像を絶する激痛にもだえ苦しむことになる。
それをハリムは片手両足を同時に受けているのだ。
『こらハリム、声出して。こらえているのは辛いよ』
ウィンリィの声に応えるハリムの声は聞こえない。
ただもだえ苦しむ音と、うめき声だけがすぐ隣の部屋にいるナタリアの耳に飛び込む。
ナタリアは激しく首を横に振った。
ダメ。
自分がこんな弱くちゃ、母様のようにハリムを守ろうなんてできない。
だけど…聞きたくない。
耳をふさぐナタリアの両手を、そっと包み込む暖かさを感じて、ナタリアは顔を上げた。
「大丈夫?」
心配そうに覗き込む少年と少女。
ウィンリィの子ども、スウォードとカレナリアだ。兄のスウォードは8歳、妹のカレナリアは4歳。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
少し舌足らずな様子で問いかける少女を見つめていると、ナタリアは涙腺が緩むのを感じた。目頭が熱くなる。
「ごめん…」
「謝らなくていいよ。僕たちもジョイント手術を何度か聞いたけど、ハリムはとても欠損部分が大きいんだ。痛いのも人より多いんだ」
とても落ち着きのある父親にその髪も目も色まで一緒な長男は、涙が止まらないナタリアにバスルームから取ってきたバスタオルを渡す。
「僕は手術受けたことないけど、すごく痛いのは分かるよ。家族の人が心配するのもよく見るんだ」
「そう…」
「だけど、ママを信じて。アルおじさんを信じて」
スウォードのまっすぐな視線をぶつけられて、ナタリアは思わず息をつめる。
少年の言葉を疑っているわけではないのだ。
ただ、ハリムの苦しむ声を何とかして自分の耳から追い出したかった。
だけども、それをナタリアは言わずに鼻をすすりながら頷いた。
「わかった。信じてみるよ」
朝に始まったジョイント手術は昼過ぎには終わった。
すべてが順調に終了し、激痛に憔悴しきったハリムはナタリアの付き添いで3日ほどジョイントとの拒絶反応を戦うことになった。
自分もかつて人間だったのだがな。
苦笑する男の声を、エドは聞き流す。
なんと、人間とは強欲なことか。これを求めれば、それよりもと高みを目指す。欲はきりがない。
「俺たちはそれほど欲張りじゃない」
そうか。
だが、人の命をお前はその手で殺すこともできるし、生み出すこともできるのだぞ?
止血を施すその下、蒼の軍服が鮮血に染まっていく。
『大佐、急いでください! それほど時間を稼げない!』
そう叫んでいるのは誰だろう。
ただそこにいるのは【エルリック大佐】で。
彼女の腕の中にいるのは、血の色を失い、彼女を庇って負傷した【マスタング准将】で。
そうだ。
ここはブリッグス山脈の麓。
最後の、戦いの場所。
自分を庇って負傷した准将の身体からは鮮血が迸り、医術的処置を施しても出血は止まらない。
エドは絶望して、空を見た。
夜明けを迎えた薄紫の空は、どこまでも澄んでいて。
この命を、救いたいと、思った。
この命を、救わなくてはならないと、思った。
真っ先に浮かんだのは、男と、女と、紅い石だった。
次に浮かんだのは、かつて弟と交わした約束。
使わない、と決めた。
頼らない、と決めた。
否、喩えエドは手中にあるならば、今、迷うことなく使ってしまうだろう自分の心に戦慄した。
迷う間も、蒼の軍服は鮮血に包まれて。
エドは困惑し、悲哀の中で絶望する。
そして、一人の名前を紡ぐ。
たった一人、医療錬成に長けた、銀髪の親友の名前を。
エドは目が覚めた。
目尻を伝う冷たい涙を、隣に眠るロイに気付かれないように拭って。
ここのところ、頻繁に夢を見る。
壊すことを決めてからは特に多い。
だが、今日の夢はリアルだった。いや、かつて実際に起きたこと。ロイの胸には未だに傷が残り。生死の境をさまよったことを、まるで懐かしい過去のように話すロイがいる。
エドにとっては懐かしい過去ではない。
結婚してすぐの頃、よくあの時のことを悪夢に見て飛び起きた。その度に、ロイは胸の傷跡を見せて、穏やかに言うのだ。
『ほら、エド。これは君が私を守ろうとした証なんだ。私にとっては、愛の証、だからね。私は幸せだよ。君の証を、この身に受けて』
そうではないのだ。
もし、掌中にあの紅い輝石があったなら、エドはその力を使っていただろう。
二度と使わないと、決めたはずだったのに。
『お前は、きっと後悔する』
そうだ。
男の言った通り。
『あなたは子どもを生むべきよ。生めばきっと、命の大切さを知るわ』
フェルを生んで、シンの内紛に伴う誘拐に巻き込まれて、エドは思い出した
自分を無条件で受け入れてくれるだろう存在が、実はあまりにも儚く消えていく可能性があることを。
一度罪を犯した咎人が、再び罪を犯した時に手にしたのは、やはり罪だった。
『罪は、残る』
そう。残り続け、エドの心を時折苛む。
『石は、おそらく残るだろう』
エドに手足を、アルに肉体を与えて、紅い輝石は力をほとんど失ったのに、その形はとどまった。
『俺たちに償いなど必要ない。そこに残るのは…おそらくは淀んだ水のような、やがて変質していく、魂の残滓だ』
男は遠くを見つめて言う。
『けれども、どうかお願い』
女は静かに、懇願する。
『それを、いずれ消滅させてくれ』
『それがアルの』
『それがエドの』
男と、女に対する償い。
「…エド?」
少し寝ぼけた声に、エドは我に返った。
「なんだ、起こしたのか。悪かったな」
「いや……眠れないのかい? それとも、また夢を?」
「なんでもない。ただ目が覚めただけだから」
穏やかな応えに、ロイは安心したように再び目を閉じた。
エドはその横顔を見つめて、微笑んだ。
償いをすませば、過去が清算されるなどとは思っていないけれど。
ただ、隣にある暖かさを手に入れることが出来たことが、エドの幸せの始まりだと、不意に感じた。
「おかえり」
「うん。ハリムの手術は無事に終わったよ。ジョイントも問題なく機能してる。僕が発つ前の日に、お試しの機械鎧つけてたけど…リハビリ早く始められそうだったし、ちょっとハリムが弱ってたからナタリアを置いてきたよ」
「うん」
中央駅からそのまま、技術研究局総局長室に現れた夫の報告を聞いて、アレクは微笑んだ。
「ハリムも一人より、ナタリアがいた方がいいでしょ」
「うん」
傍に励ましてくれる身内がいるといないのとでは、回復のスピードが違うことが医師であるアルも、アレクも知っているし、何より身にしみている。アルはエドの、アレクは実体験だ。
「幻痛が1年経っても出てるってことは、なおのことリハビリは早くいけそうだね」
「アレク。うちの子どもたちは?」
「ん?」
書類に目を通していたアレクが顔をあげて、にやりと笑った。
「なんかね…必死に勉強してるんだよ」
「は?」
「作戦勝ち?」
「………………どういう意味?」
アルが姉弟を連れてラッシュバレーに向かったあと、双子は再びアレクに【上級試験受験】についてなんとか認めさせようとした。ところが、今度は時間的余裕があったアレクは切り返した。
『じゃあ、試験受けさせてあげるよ』
それは公表されている今年の試験の筆記試験問題だった。解いてみろと促されて双子は勇んで取り組み始めたが…すぐにペンを投げた。
『なんだよ、これ』
『これ? 特級試験の問題だよ』
あっさりと応えて、アレクは双子が残した空欄部分にさらさらと答えを書き入れていく。
『水の構成要素を理解していたら、再構築できる液体を応えろ? なんて馬鹿な問題考えたのかしら』
おそらくは満点だろう答えを渡されて、双子は応えた。
『俺たちは上級を』
『上級を許したら、特級をって話になるよね。双子に認めたら、他人にも認めることになるよ。それはどう?』
『どうって』
双子はアレクの意図を理解できない。
『医療錬成はある程度の年齢が必要。その理由は言ったでしょ。生半可な知識で、命に関わる仕事をするべきじゃないと私は思ってる。知ったつもりで医療錬成を行えば、大変な事態を引き起こす可能性もある』
『じゃあ、医療錬成をしなければ』
『誰がそんなことを監視できる? 出来ないでしょ』
たたみかけられて、双子は黙った。アレクは続ける。
『あたしは確かに16歳で国家資格を取った。だけど、すぐに軍に入隊して、ずいぶん人間兵器として人を殺したよ? だから、双子にはそうなってほしくないんだ。だから、医療錬成って壁を作った。今よりも軍が強い力を持っていたならば、双子みたいな錬金術師は間違いなく、戦争に駆り出されてるよ。それを公にしたくなかったら、医療錬成って形にしたんだよ』
『………………』
『それにね』
続いた言葉に、双子は目の色を変えた。
今年の最高得点は、満点だったんだよね。久しぶりに。
『満点、これが!』
問題用紙を覗き込む双子を見て、アレクは言う。
『二人が受験するときは、満点ぐらいいけないとねぇ』
だからしっかり、勉強しときなさい。
「………………で、しっかり勉強してるわけ?」
「うん。だから作戦勝ち」
にっかりと笑ってみせる妻に、アルは苦笑する。
「まったく………………」
「イオが少し我が儘が出てきてるね。アルのことを待ってたみたい。話があるみたいだから聞いてあげてね」
「わかった。じゃあ、帰るね」
その日の午後、一度自宅に帰ったアルと合流してアレクが向かったのは大総統府内にある私邸だった。
ロイはまだ帰宅しておらず、書庫の扉からフェリックスが顔を出した。
「あ、アルおじさん、アレクおばさん」
「フェル、エド知らない?」
「母さんなら、リビングにいたよ」
正直、飄々としすぎていて、アレクでも何を考えているか読み取れない甥っ子は、数瞬天井を見上げて、
「アレクおばさん」
「ん?」
「最近、母さん具合悪そうなんだ。少し診察してあげてよ。父さんにも黙ってるみたいだし」
「……そうなの?」
「うん」
何冊か錬金術の本を抱えながら、フェリックスは去っていく。アレクはその後ろ姿を見ながら、アルに肩を竦めてみせて、
「まったく、フェリックスほど考えがわかんない子も珍しいわね」
「そうかな? 僕は分かる気がするけど…多分、フェルはああいう言い方しか出来ないんだよ。姉さんのこと、心配なんだけどね」
おそらく、この場に亡きトリシャがいたならば、こういうだろう。
『まあ、フェリックスはフィリップに似たのね』
と。
だが、フェリックスが祖父に似ていることなど、幼くして別れたアルはもちろん、アレクも知るよしもないのだが。
「ここのところ、ずっと気分が晴れなくてさ…夢見が悪いのは、壊すことが決まってからなんだけど」
エドは深く溜息を吐きながら、続いて小さくあくびをする。
どうやら十分に睡眠が採れていないのは分かった。
アレクは、しかし思い出した。
確か、アレクが式典参加のためにドラクマに向かった時、中央駅で見送ってくれたエドは具合が悪いのだと、言っていた。
帰国して、顔を出せば少し顔色が悪かった。
3日と空けずに顔を合わせていたけれども、フェリックスに指摘されるまで、それほど気にしていなかった。控えている【作業】を想像するのに緊張が引き起こされているとぐらいにしか思っていなかった。というより、エドが自分の状態を外に出さないように隠し続けていたというべきか。
「ねえ、エド。どれくらい前から具合が悪い?」
「ん? さあな…覚えてないけど。夢見が悪くなった頃だから…2ヶ月くらい前じゃないかな」
2ヶ月前。
ロイが大総統になってすぐに、【石の破壊】が決まった。
その頃から、ほとんど分からないけれどアルの精神状態にも変化が見えた。ほとんど見せないアルですらそうなのだ。もっと感情豊かなエドが影響を受けていないはずがないのだ。
だが。
アレクは眉を顰めた。
「アレク?」
「……なんか、ひっかかるんだよね。エド、それって夢の所為?」
「ん? そうじゃないか? なあ、眠れる薬くれるとありがたいんだけどな」
「待って。エド、あなた……」
妊娠、してるんじゃない?
告げられた言葉に、エドは数回瞬きをしてみせて。
「まさか」
「思い当たる節は、あるでしょ」
「………………」
否定は、出来ない。
「ほら、ね」
アレクは勝ち誇るわけでもなく、ただエドを覗き込みながら、
「お医者、行こうよ」
「………………」
その沈黙の意味をアレクは理解していた。
だから、ただ待った。
その沈黙を破ったのは、部屋に入ってきたアルだった。
「ごめん、遅くなって。忘れ物を車に取りに行って……って、何かあったの?」
妻ほどではないにしても、姉限定では察しの良さは一級品なアルフォンスは、考え込んでしまったエドの顔を覗き込む。
「姉さん?」
「あ? あ、ああ…ごめん、聞いてなかった。どうした?」
「アル、車を表に回してくれる?」
アレクの静かな声に、エドは眉を顰める。
「アレク」
「考えていても仕方ないでしょう。早いほうがいいわ。なんなら、来て貰う? フェルの時にお世話になった先生とか」
アレクのやんわりとした口調、しかし譲らない言い様にアルもちらりとアレクとエドを見て、自分が今口を挟むべきではないことに気付いて黙り込む。
「エド。こんな大事な時期に、とか思わないでね。授かったのは、命よ。大切な命。代わりの効かない」
「わかってる」
軽く唇を噛む。
「だけど、この時のために俺は軍人を続けてきた。それが…俺の責任の取り方だから」
「エド」
『あなたは子どもを生むべきよ。生めばきっと、命の大切さを知るわ』
女の優しげな言葉が、耳から離れない。
かつて、ラストと呼ばれた、女。
『私は、きっと生みたかったのよ。愛しい者の、あるいは自分の欠片を』
『だけど、死なない身体になって、身体の時は止まってしまった』
『エドワード。大人になって、愛する者を得たならば、子どもを生みなさい』
それは、忠告だったのか。
それとも忠告という名の、非難だったのか。
弟の身体を取り戻してやりたいと願う姉の、
姉の手足を取り戻したいと願う弟の、
母を再び生き返らせようとした、禁忌を犯した愚者の、果てなき欲望を、彼女は柔らかく受け止めて。
男のように、非難も否定も口にせずに、ただ自分の後悔だけを告げて。
ただ命の重さを知ることを促して。
『罪は、罪なの。決して、消すことはできないの。忘れることなど、出来ないものよ』
かつてエドを、国家錬金術師【鋼の錬金術師】を殺めようとしていた男がいた。
男は、声高に錬金術師を非難し、罪を重ねようとするエドを否定した。
だけれども、ラスト-------色欲という業の深い異名の女は、ただ優しくエドを抱きしめて全てを受け入れた。
『女は業の深い生き物よ。その胸の中に、愛する者のすべてを受け入れてしまえば満足する。そして…無敵になるのよ』
強くなれるのだ。
そう告げた彼女の、肉欲的な朱い唇を思い出す。
フェリックスの時は、正直妊娠発覚から出産までの時間が短すぎて、ラストの言葉の意味を深く考えることなど出来なかった。だが、ラストの言葉に意図を感じ始めたのは、シン国からリン・ヤオ皇太子が現れ、アレクに皇太子暗殺のための人質としてフェルが、アルが、双子が、メイが選ばれた時だった。
怖い、と感じた。
身近な命を失うことが。
その怖さは、エドには覚えがあった。
6歳で母が病死した時。
母の人体錬成に伴って、アルの身体が消えていくのをただ見ていることしか出来なかった時。
見送ることしか出来なかった。
叫ぶことしかできなかった自分。
あんな思いをもう二度としたくないと、賢者の石を探して彷徨った。
そして………………手に入れた。
再びの罪は、後悔だと告げられても、エドは迷わなかった。
顔を上げた、エドの表情は決意にあふれていて。
アレクは安堵の溜息をついて。
「行く?」
「ああ」
「じゃあ、電話してからにしようね。夕方だし…アル、運転お願いできない?」
しかし珍しく夫からは、
「ごめん、僕ちょっと残るよ」
「あれ?」
「ごめんね、アレク。誰かすぐに手配するから」
アルの言葉に、アレクは何かを察して、小さく頷いて応えた。
「うん。じゃあ、どっちかの少佐にしよっか」
そうして急遽、ハボック少佐が呼び出されることになった。