比翼連理 10






軍用車を降りると、どうやら待ち構えていたように憲兵が走り寄る。
「大佐!」
「大佐、このような事態になるとは」
「ちょ、ちょっと、待って」
わらわらと黒の軍服に囲まれて。
思わず天を見上げたアレクの視界に入り込んだのは。
見下ろすランファンの姿だった。すぐにアレクの表情が一変した。
「大佐!」
聞き慣れた声の、聞き慣れない呼びかけにアレクは眉を顰めながら、ヒューズの元に走り寄る。
「ちょっと、この総動員はどういうこと?」
「中佐の口利きで、総勢48名。憲兵を借りられたんだけどなぁ…ちょっと事態が動いてな」
ヒューズは矢継ぎ早に説明する。
路地裏で交わされた情報交換で、アレクは事態を把握した。
「…つまり、向こうさんはあたしを呼んでいると?」
「ああ」
「フェルと、メイは?」
風の流れに振り返ると、僅かな音だけでランファンが立っていた。
「二人はさきほどこちらの憲兵が病院ヘ」
「エドはうちにいるの。ロイに連絡はついた?」
ヒューズが首を横に振る。
「メイ皇女の話では、大人が一人、子供が二人。まだ中にいるようだナ」
アレクはしばらく考え込んでいたが、顔を上げる。
「ランファン。あとはあたしが引き受ける。皇太子のところに、報告に帰っていいよ」
「ナンダト」
アレクは手袋をはめながら、低い声で言う。
「あたしなら、中に入れてくれるでしょ。あとは、あたしが何とかする。それが…けじめよ」
「おい、アレク」
「マース。ロイを探して。司令部か、ホテルに間違いない。それからエドを病院に」
「…アレク」
アレクは穏やかに微笑んで。
そして言った。
「必ず、取り返す」
「……ああ」



息が、苦しい。
思わず咳き込めば、喉の奥が焼けるように痛んだ。
だが、苦しげな表情を浮かべれば、寄り添う息子たちが不安がる。
その思いで、アルは毅然とした表情を浮かべている。
「ぱぱ…」
「大丈夫だ。パパも…ママも」
後ろ手に椅子に縛り付けられているから、ほとんど身動きは取れない。ただ、双子が拘束されていないのが唯一の救いだった。
アルは建物の構造を思い出していた。
どうやら3階建てのようだ。
今、3人がいるのが最上階。比較的大きな建物で、建物の中央は吹き抜けになっており、最初ココに連れ込まれたときは、アルは下から見上げて、ずいぶん変わったつくりだなと感じたのだ。
吹き抜けへの境は突然現れる。
柵も何もないのだ。建設途中で放置された建物だろうか。
おそらく3階のここなら、誰も逃げようなどとは考えないだろう。
そう思っての、監禁場所だろう。
アルは痛みに耐えながら、思わず笑う。
だが、これでも。
まして、息子なら。
彼女は、簡単に逃がすだろう。
アレクサンドライト・ミュラー、双域の錬金術師ならば。



「…ホントにいいんだな?」
ヒューズの問いに、アレクは穏やかに頷いた。
「エドがいたら真っ先に駆け込むだろうかえど…今回は私の仕事よ」
そう。
最初に、皇太子を助けて【しまった】のは、自分だ。
あのことが、こんな形で帰ってくるなんて、思いもしなかった。
皇太子を助けたのは、それは決して正義感にあふれた行為ではなくて、そこにエドと知り合ったメイがいたから。
結果として皇太子を助けたことが、こんなにも自分たちを苦しめるなんて。
だが、それは軍人として、何より人として言えなかったし、アレクは誰かに言うつもりもなかった。
それは単なる現実逃避で、責任転嫁だから。
だから、始めた者として、夫を、息子を助ける者として、ここにいる。
「行くわ」
「…わかった、ちょっと待ってろ」
ヒューズは黒の制服が包囲する中に、アレクをいざなった。
アレクは離れた建物の屋上から見下ろす黒装束の少女をみつめて、微笑み、呟いた。
その言葉を、この国で異国人から初めて聞いたシン語に、ランファンは瞠目して。
すぐに立ち直り、穏やかに微笑みながら、一礼する。
そして、姿を消した。



多謝。
多号汝、能抜到了我。
時此故什公可以故。

ありがとう。
あなたのおかげで、私は見つけることが出来た。
だから、あなたも為すべきことを、なさい。



「お、お頭」
何かの呼びかけが外からなされたのは知っていた。
あわてて飛び出したリーダー格の男に、手下その1が告げる。
「あの、ミュラー大佐が来たと言っているそうです」
「…早いな。よし、こちらはどれくらい残っている?」
告げられた人数は予想以上に少なくて。
ずいぶん、無駄に大金をばら撒いてゴロツキを集めた割には、あっという間に飛散してしまった。
これが、異国というものだろうか。
男は眉間のしわもそのままに、言う。
「その大佐だけ、中に入れるように。武器は持たせるな。でないと人質の命はないと脅した上で、こいつに武器を持っていないか、チェックをさせろ」
こいつと促されたのは、たった一人残った女性だった。
女性は細くした目で、あせりの見える男の背中に、おそらくは男以外は理解できないだろう、部族の言葉で話しかける。
「勝算は?」
「知らん。だが、今は外に出ることも出来ん」
「…私は逃げるわよ」
「好きにしろ。オマエはいいさ、独り身だからな。だが、おれはアンティンに家族を残している」
男の焦りの、もっとも本質をみたような気がして、女性はため息をついた。
「男は…莫迦だね」
「なんとでも言え」



奇妙な、作りだと思った。
促されるまま進めば、そこは天井もない、ただの吹き抜けの空間で。
放置されたレンガが、この建物が建築途中に放置されたことを表していた。
入る直前、アームストロング中佐が立てこもり犯と交渉しているすぐ横で、アレクはヒューズの広げた建物の見取り図を見ていた。
『どうやら途中で放り出したみたいだけど、斬新な建て方らしいな』
『吹き抜けになっているの? 強度が大丈夫かしら?』
ちらりと見上げれば、アレクの心配していた強度はあるようで、放置されていた割にはしっかりと建っていた。
武器を持って入れば。
そう交渉役は叫んでいた。
吹き抜けは天井がない代わりに、澄み切った蒼穹をまるで一枚の写真のようにそこに飾っていた。
アレクは陽光で目が眩み、辺りが見えないので少しの間、その場で立ち尽くしていた。すると、頭上から声が降ってくる。
「動くなヨ。武器は持っていないカ?」
男の声。
アレクはその声に聞き覚えがあった。
最初に、エルリック家にアルたちを預かったから、皇太子を暗殺しろと告げた、声。
忘れたくても、怒りとともに思い出される。
だがアレクは怒りを抑えて、応える代わりに両手を挙げた。
するすると、誰かが近づく気配にアレクは視線だけ寄せる。ようやく明るさに慣れた目が、一人の女性を捕らえた。
「確認、シマス」
「お好きに」
両手を挙げたまま、アレクは女性が、ここはあそこはまさぐるままにさせる。
武器など持っていないのだ。
もともと銃器火器など、アレクには必要ない。
だが、異国からきた襲撃犯はそれを知っているのか。
「何もないわよ」
しばらく触っていた女性は諦めて、顔を上げてずいぶん上にシン語で声を放り投げた。
「本当か?」
「ええ」
「わかった」
女性は現れた時と同様に、するするとその姿を消した。
アレクは黙って女性の消えた先をみつめていたが、すぐに顔を上げる。
「で、私は何をすればいいの?」



アルは思わず、苦笑する。
こんな事態になっても、アレクはアレクだった。
一つ言えば、百を理解する。
だけれども、自分がしなくてはならないこと、相手がすることを望んでいることを分かっていても、答えを明確にするように促すのだ。
それは人によっては、アレクの鋭さを認識させられる言動であり、
エドは『あいつのそういうとこ、ムカツク時があるんだよな』とむっすりと答え、
少将やヒューズは『まあ、そういう聡さが必要だった時期があったからだろうな』と苦笑し、
アルは苦笑するのだ。
だが、俯いての苦笑だったからアルに短刀をつきつける男は気づかない。
「一つダ」
「皇太子を、暗殺しろって話?」
「ほかには望マン」
「ほかに望んでもいいんだけどね。ところで、旦那の顔と子供の顔ぐらい、見せてくれてもいいんじゃない?」
まるで家族を人質にとられているという、緊急事態にあるとは思えないほどののんびりとした口調。
男は一瞬激昂しかけて、双子に声をかけた。
「オイ、顔を出セ」
「うん…」



見上げていたアレクは、最上階である3階の一画から同じ顔が二つ、困惑したように顔を出すのを見て、内心安堵のため息を上げる。
よかった。
無事だ。
「テオ、レオ」
「ママ」
「ママ、フェルは?」
「フェルとメイならマースが保護して、病院に送ってくれたって」
今にも泣き出しそうだった双子の表情が一瞬明るくなった。
「よかった」
「ね、アルは?」
続いたアレクの声に、だが双子が硬い表情を浮かべるのを見て、アレクは問う。
「レオ?」
「…あのね、けがしてるみたいなんだ。さっき、フェルとおねえちゃんを逃がす時に、僕とテオとパパが手を合わせたら、すっごく光って。すっごく大きな穴を開けたんだけど」
「…………………え?」
いまいち、レオの言っていることが理解できない。
練成を行ったのは、3人? だが、双子があれほどの練成を行えるとは信じられない。行えてもせいぜい小さなおもちゃを練成する程度のはずなのに。
では、アルはどこで怪我をしたというのか?
混乱しながら、アレクは問う。
「近くに、アルはいるの?」
「うん」
二人が同時に答え、同時に首を違う方向に向ける。
そうか、そこにいるのね。
アレクは納得する。
姿を見えないまま、男の声が聞こえる。
「状態がわかれば満足ダロウ。では、今すぐ皇太子を殺して来い」
「…こんな状態になれば、普通皇太子をココに呼ぶんじゃない?」
アレクの問いも、姿が見えない犯人は答えず。
アレクは小さくため息をついて。
まだ覗き見ている双子に両手を差し出した。
「テオ、レオ」
「ママ?」
「そのまま、飛び降りておいで」
「…………ママ?」
「ん?」
差し伸べた両手はそのままに、銀色の美しく長い髪に、陽光を煌かせながら母は首をかしげる。
「どうかした?」
今日の晩御飯はハンバーグなんだけど、嫌いなの?
まるでそんな台詞を言ったように見えるけれど、母の言った言葉は4歳の双子にも明らかにおかしいと、思わせる言葉で。
「ここ…3階だよ?」
「うん、知ってる」
「……飛び降りるの?」
「そう。二人同時に飛び降りてくれた方が楽かな」
あっけらかんと告げる台詞は、双子も思わず顔を見合わせ、背後で男に短刀を突きつけられている父親に救いを求める。
「パパ」
俯いていたアルは僅かに顔を起こして、ともすれば痛みに押しつぶされそうになりながら、穏やかに言う。
「大丈夫だよ。ママを信じてごらん」
「……でも……」
「大丈夫だよ」
父親の【大丈夫】は、いつだって大丈夫だった。
アルに短刀をつきつける男は一瞬呆気に取られて、爆笑する。
「オイ、どこの世界に自分の息子ヲ、飛び降り自殺させる母親がいるンダ」
「そういう言い方、…するならうちの奥さんがそうだね」
すぐに切り返されて、男は激昂する。
「バカナ!」
「テオ、レオ。ママが無理だな〜と思えることで、失敗したことあったか?」
双子は目を泳がせながら、無敵な母の所業を思い返す。
いつだって暴走する母を、穏やかな父が苦笑しながらたしなめる姿しか…思い出せない。
結果はどうだったのだろう…。
「レオ…」
「テオ…」
お互いの顔を見合わせていた双子は、
「テオジュール! レオゼルド!」
滅多に呼ばれない自分たちのフルネームを、母が厳しい口調で呼ぶのを聞いて、心を決めた。
見合わせた顔は、決意に満ちていて。
振り返れば父も、穏やかに微笑み。
「大丈夫」
穏やかでないのは、男だけ。
「オ、オイ」
「1」
「2」
アレクは差し伸べた両手、掌底に空気練成の練成陣を縫い取った手袋をはめた両手を静かに合わせた。
「3!」
飛び降りてくる小さな身体が、二つ。
アレクは両手を胸の前で合わせ、頭上を見上げる。



落下していくスピードと同時に、双子は、輝く青い練成光を見た。
そして音を聞いた。
風の音。
それはすぐに轟音に変わり、双子の服を、髪を激しく揺らしていく。
落下の速度は急速に弱まり、双子は母親譲りの濃紺の双眸を見開いて、辺りを見回し、足元を見た。
穏やかに微笑む母が、両手を伸ばして、待っていた。



二人は、小さな手を懸命に伸ばした。
思いもしなかった状況に二人は混乱していたけれど、ただ母の手をつかめばいいのだと、それだけを理解していた。
空気変成でアレクが起こした小規模だが強力な竜巻は、幼い二人の落下スピードをとどめたばかりか、浮かせてしまったのだ。
アレクは、二人の手を取って、抱きしめる。
竜巻の威力がなくなり、我が子の重さが、腕に伝わる。
「ママ」
「…おかえり」



双子がお互いに合図を掛け合い、飛び降りたことで男はあわてた。
まさか、本当に飛び降りるとは思っていなかったのだ。
きっと眼下には小さな子供の無残な光景が広がっているだろう。
「嘘ダ」
そう思いながら男は吹き抜けが見える場所まで、アルにつきつけていた短刀まで放り出して、吹き抜けが見下ろせる場所まで走った。



抱きしめたわが子の重みを感じたのもつかの間、アレクはすぐに双子を地面に降ろし、密やかに言う。
「いい? 隠れていて」
双子は声を出さずに頷いて、走り始めた。それを確認する間もなく、男の声が聞こえて、アレクは見えぬ夫に向かって叫んだ。
「低くしてて、ね!」
再び打ち鳴らされた両手は、今度は音高く、輝く練成光もずっと広範囲に広がった。



叫んだ声は、アルの耳にも届いた。
何かをする。
それはわかった。
だが、椅子に座り、後ろ手に椅子に固定されていては身動きも難しかった。
しかしアルは痛みも気にかけず、反動をつけて、背後に倒れた。
椅子は勢いをつけて、後ろに倒れる。
アルは激しく後頭部を床にうちつけ、一瞬息がつまった。
吹き抜けが見える場所まで駆けていった男は、アレクの声に足を止めようとしたけれど、そこは既に吹き抜けと部屋の境で。
アルはなんとか首をひねって、男の様子を伺った。
吹き抜けから駆け上るようにあがってきた青き光。
それは、アルにとっても見慣れた、練成に伴う電気光で。
光は一瞬。
続いたのは、低く小さな音。
男は自分に何が起きたか理解できなかった。
次の瞬間。
シュン。
音よりも前に、男の上腕部がシャツとともに裂けているのに男よりもアルのほうが早く気づいた。
「ナ、ナンダ!」
それがアレクによって生み出された空気圧の制御による所謂【カマイタチ】であることに、男は気づく猶予も持てずに、頬、太腿と切り裂かれていく。
だがどれもが軽傷でしかないことに、男は気づいていない。そして、鼻から顎にかけて覆っていた黒い布が裂かれた。
なおのこと、男は混乱し、そして。
アルは叫んだ。
「アレク、落ちる!」



状況は分からなかった。ただ、男のくぐもった悲鳴だけが聞こえていた。
初めてそれを受けた者は混乱する。
どこにも見える範囲に敵の姿がないのに、自分は切り裂かれているのだから。
かつて北方へ戦いに赴いたときでも、アレクはこの練成をほとんど使わなかった。
あまりにも残酷な結果を招くことがあるから。
だが、今は容赦しない。
しかし、夫の声にアレクは再び両手をうった。
落ちてくる男の、落下スピードを抑えるために。



「無事か!」
「無事じゃあない」
飛び込んだ少将に、即座に不機嫌そうなアレクの声が聞こえて、少将は思わず後ずさる。
「な、なんだ」
「よ、ロイ。フェルはもう病院だぞぉ?」
いつもの様子でヒューズが言う。
少将はアレクの姿を探しながら応えた。
「ああ、怪我もない。エドが退院させて今はエルリック家のほうで待機してもらっているが…」
「アルフォンス・エルリックも、テオジュール・エルリックも、レオゼルド・エルリックもさきほど病院に向かいましたが…」
アームストロング中佐も困惑したように建物の奥を見ている。
ヒューズやアームストロングのいる場所は吹き抜けになっていて、夕暮れ時でも十分に明るいが、少し離れた場所にいる様子のアレクの姿は影しか分からないほど暗かった。
「なぜだ。双域の。病院に向かわない」
少将の呼びかけは、アームストロングや周囲にいる憲兵たちに慮っての呼称だった。
時折輝く練成光で、アレクが誰かに医療練成を行っているのは分かった。
「ロイ、ちょっと来て」
呼ばれるままに、吹き抜けとは明らかに違う暗闇に少将が踏み込むと、アレクが医療練成を行っているのは、どこかで見たことのある男だった。見た様子ではあちらこちらに裂傷が見られるがそれほどひどいものではないようだ。何より気絶しているようだった。
「この人、誰か分かる?」
「こいつは…」
見たことがあった。
どこでだったか…。
数瞬考えて、思い至る。
「ミーファ・カン皇女の侍従だ」
「…え?」
アレクも思わず眉を顰める。
「どういう、こと?」
「…分からん」
ホテルの中庭で襲ってきた者は、『ヤオのガキが…』と皇太子を貶した。
メイは、富める部族と、そうではない部族の争いがあり、皇太子もその中にいると、教えてくれた。
そしてアレクは不意に思い出す。
初めて皇太子一行が中央駅に降り立ったとき、今自分が医療練成を行っている男は、確かにミーファ・カン皇女、見事に着飾っていた姫君の手を引いていた。
そして、その横では決して質素とはいえないけれど、動きやすさ重視の恰好だったメイ。
それは…富める部族と、そうでない部族の差だったのではないかと、今は思えるのだが。
だとしたら。
だとしたら、すべての根源は。
アレクは不意に立ち上がり、ヒューズを呼ぶ。
「どうした?」
「確保された人間の中で、シンの人間は?」
「そうだなぁ…4人ってところだ。あとはこっちのテロリストの端くれってやつだな」
「マース。その4人と、このおじさん。すぐに解放して。それで、ホテルに連れていくのはロイの仕事よ」
「?」
「おい、双域の…」
「いい? よく聞いて」
アレクの話す内容に、少将は眉を顰め、ヒューズは瞠目し、アームストロングは…、
「ふむふむ、興味深いですな」
「でしょ? というわけで、ロイ、よろしくね」
アレクはアルと双子が入院している病院に走り、少将は5人を連れ出した。
「あの〜、ヒューズ大佐…私たちは……」
取り残された憲兵たちは、確保した【テロリストの端くれ】と共に、困惑した表情を浮かべる。
誘拐事件、それも少将の子どもと、大佐の子どもと、シンの皇女が誘拐されたというのに。
目の前の細メガネの大佐は、あっけらかんと、
「あ〜、ごめん。誤報だったわ。なんか家出? みたいな?」
「…………………ホントですか?」
「うん。全員身柄確保したから」
「…………………で、これから我々は?」
「そうだねぇ、あ、一応テロリストの端くれ捕まえたんだから、お手柄?」
「…………………分かりました。帰ります」
48名もの憲兵がため息をつきながら帰っていく後ろ姿を見遣って、アームストロング中佐が呟いた。
「すまぬな、お主たちの無念、吾輩がしっかとこの胸に刻んでおくぞ!」
もちろん、誰の耳にも届かず、届いても応えようのない呟きだった。



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