それでは。
敬礼して、金城は迎えのヘリに乗り込んだ。
古藤も特救隊だけで用いられる挨拶の方法で、答えを返した。
真田も。
同じように敬礼してみせて。
微かに笑った。
それが、かつての部下との久しぶりの邂逅、だった。
陸に下りれば、古藤には保安本部への報告が待っていた。
「あれ、隊長、本部ですか?」
「ああ」
「これから打ち上げやのに」
「場所はいつものところだろ? あとから必ず行くから、先に始めてくれ」
「はい」
調子よく敬礼する、現在の部下に苦笑を投げかける。
LPGタンカー火災など、滅多にない事故だった。
そして死亡者も、海保からけが人も、嶋本の火傷は報告するまでもなかったが、なくてよかったと堂本警救課長に言われた。
本当にそのとおりだった。
その言葉を反芻しながら、古藤はいつもの居酒屋のドアを開けた。
そしてすぐに静まりかえった雰囲気に気づいた。
眉間に皺を寄せて顔を上げれば。
凍りついた雰囲気に包まれた一団があって。
立ち上がっている者が二人。
勝ち誇ったように立っている方は知らない顔だ。
もう一人、呆然と目を泳がせているのは、嶋本だった。
入り口のセンサーが働いて、小さな音がして。
店員があわてて声を上げた。
「いらっしゃいませ〜」
状況が飲み込めず、古藤は座敷の手前で眉間に皺を寄せたまま、近くにいた鹿取に声をかけた。
「おい、何が」
そのときだった。
嶋本が搾り出すような声をあげたのは。
「うそ、や……」
「うそやないわ。そんな嘘ついてもしゃあないやろ。なんなら、俺が電話してやろか? 曽田さんに。そしたらわかるやろ」
勝ち誇ったように立っている若い男は呆然と自分を見ている嶋本の顔を、まるでキスするかのように近づいて。
そして、ゆっくりと顔を離して。
さらに勝ち誇るように告げた。
「嶋本の所為で、曽田さん、潜水士、やめなあかんなったって」
嶋本がゆっくりとひざをつく様子を。
古藤は眉間にしわをよせたまま、ただ見つめていた。