それに気づいたのは、金城だった。
報告書を書きながら、不意に思い至る。
「真田」
「はい」
「ちょっと来い」
「はい」
深刻そうな金城に呼び出されて、言われた言葉に真田は数回瞬きした。
「嘘だろ?」
「そんなこと、あるのか?」
「いや、ありえないでしょ」
「………なんだよ」
それを聞かされたとき、誰もが呆気に取られて否定した。
ありえない、と思ったのだ。
だが、金城はそのすべてに首を横に振って。
そして応える。
「いや、本当だ。嘘じゃない。真田は初出動以来、救助できなかった要救助者がいないんだ」
そういえばと、真田は思い返す。
最初から『揚収』が命令されている場合を除いて、『救助』の時は必ず要救助者を発見、救助してきた。
それは特救隊に来てからも同じだった。
それに金城は不意に思い至った。
先日の出動報告書を書いていて、真田がヘリに同乗して、救助を行ったことを思い出す。
その手際のよさを思い出していて、そういえばその前の救助も、その前の救助も……。
「真田が出動した3隊の救助率は100%なんだよ」
「いや、だってさ……」
押尾がカレンダーを確認しながら言う。
「先々週の当直で、確かダメな時あったんじゃなかった?」
「あの時、真田は出動していない。基地待機だった」
「あ、そういうこと……」
運のよさ、とは一言で言い切れないことを、その場にいた全員が気づく。
年間、3隊が出動する回数を考えれば、真田が『偶然で』要救助者を救助できない確率など、天文学的数字になる。
だとしたら、言えることはひとつ。
「運、じゃないってことになる」
「自分は」
真田はゆっくりと口を開いた。
「出動があれば、出動し。要救助者がいれば、救助するまでです」
「うわ、真田ちゃん。そういう真摯な態度が、嫌味に聞こえるよ〜」
押尾の言葉にも、真田は動じず。
「すごいですね……」
「これも、真田の特出した才能、というべきだろう。少なくとも、あの救助判断の速さを考えれば、だけどな」
金城は肩をすくめる。
「だが、真田が出動しない3隊の救助率は他の隊と大して変わらないからな。それはそれで考えどころだな」
『そりゃすごいところに気づいたな、金城』
「いや、出来れば気づきたくなかったですけどね」
金城の溜息を引き受けるように受話器の向こうで、古藤が溜息を吐いた。
『まったくだ。救助率100%なんて、人間じゃない。いくら俺たちでも、そんなことは無理な話だ』
「それがですね……不思議と、偶然だって言い切りたくないっていうか……」
金城は思う。
真田の救助率に気づいて、そして思ったこと。
次の出動で、真田の『伝説』が崩れるだろう、ではなく。
次の出動でも、真田は救助するだろう、という確信に似た思い。
「あいつなら、やってのけそうだなぁと」
『まあ、そうだろうな。ロボット過ぎるところがあるのが、ちいと珠に瑕ってことだろうけど』
かつてのバディはもう一度苦笑して。
『あいつはそういう星の下に生まれた、そう思うしかないだろ?』
「そう、ですね……」