069 ヒヨコと





「俺は1隊希望だけどな」
「へえ、お前がねぇ」
低レベルな意地の張り合いに、嶋本は鼻で笑って背中を向けた。
ここで自分がいかにその隊にふさわしいか、相手がいかにふさわしくないかいい争いをしたところで、結論は出るはずなどないのだから。



「お前ら、何回言えば分かるんだよ! 何がダメなんか、自分で考えろ! あ〜、みっともないから倒れるならもうちっと隅へ行けYO! 次、嶋本、柳井!」
黒岩の罵声を受ける4人を、共同訓練中の3隊のメンバーが見つめていた。
「これはなかなか……面白いな」
「そうですか?」
「おいおい、真田。お前もしっかり見ておかないと。困るんだけどな」
「………力量不足、経験不足、見当違い」
次々と並べられる非難の言葉に、一瞬呆気に取られた金城だったが。すぐに苦笑した。
「よく言うよ。何年か前は、お前もああだったじゃないか。それは俺だっておんなじさ」
「……………そうでしょうか」
「ああやって」
金城が黒岩の罵声を一身に受けている小柄なひよこをまっすぐに見つめながら、
「怒鳴りつけられて、鼻っ柱、ぺっきり折ってもらうことが必要なんだよ、ひよこのうちに。無駄に鼻ばっかり高くなって、管区の代表たいな面下げてるやつが鼻っ面ひっぱたかれて、目が醒めたやつほど伸びるんだよ」
「………そうですか」
「これは、古藤さんの受け売りだけどな」
「金城さん」
「ん?」
「ひよこ、入れた方がいいんでしょうか?」
「……………入れたくないのか?」
「いえ、そういうことではないんですが。ただ」
罵声と。
押し殺したうめき声と。
そんな中で仁王立ちする黒岩と。
悲鳴のような返事を返しながら、俊敏に動いている小さな影。
真田は静かに見つめて。
「分からないだけです」
「あれはいいかもしれないな。ほら、今やってる……あれは5管の」
「嶋本さんですね」
高嶺が声をあげた。金城は穏やかに微笑んで。
「あれは古藤さんの、秘蔵っ子だからな」
「いつだったか、5管の出動で」
そういえばと真田は高嶺の長い睫を見て思い出す。誰もが、真田ですら気づかなかったあの嶋本という小柄な保安官の火傷を、高嶺は見抜いていた。
「…………そうかもしれない」
独り言に金城は反応しようとしたけれど、それが何を意味する言葉なのか理解しかねて、内心だけで溜息をつく。
大丈夫、だろうか。
レスキューは超一級。
コミュニケーションが難点なこの隊員が、秋には自分と同じ立場になる。



入庁から最速で特殊救難隊隊長に真田甚が上り詰めるまで、あとわずか。
ただ黙然と訓練を見つめる真田を見つめて、金城は不安を隠せなかった。




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