070 隊長拝命





「失礼します」
声をかけて入室すれば、いつもと違う雰囲気に一瞬足が止まったけれど。
真田は動じることなく、彼らが囲むテーブルの脇まで進んで、自分を呼んだ金城の横に立った。
「なんでしょうか」
「まあ、座れ」
金城の指し示す椅子に浅く腰掛けて、姿勢を正す。その様子に金城が僅かに微笑んだように見えた。
「真田」
「はい」
「楠瀬さんが特救隊を辞められることは知ってるな?」
ちらりと見た5隊隊長は金城以上に優しい表情で真田を見ていた。
噂は今年の始めからあった。
古藤よりも古株の楠瀬は、元3隊隊長古藤が身を引いたことをきっかけに自分も引退の時期だ、後進のために譲るべきだと、口癖のように言っていた。
だからむしろ特救隊の中では、楠瀬が引いたあと、誰が5隊隊長に拝命されるのか、それが噂の中心だった。
「はい」
「5隊には俺が隊長として入る。よって、3隊の隊長がいないわけだ。俺は」
金城はまっすぐに真田を見つめて、
「俺は真田に3隊隊長を任せよう、と思っている」
真田も金城の視線をまっすぐに受け止めて。
ゆっくりとテーブルの周りに座る一同を見回した。
そこにいたのは、特救隊の6隊すべての隊長だった。
一瞬の沈黙が、テーブルを包む。
「どうだ、真田。受けるか」
金城が応えを促す。



特救隊は全員一致で行動を起こす。
それが原則。



だからこそ、真田は周囲を見た。
そして金城の言葉に、誰一人異論を唱えなかった。
だから、真田は小さく頷いて。
「お受けします」
「そうか」
「お前なら、出来るよ」
優しい楠瀬が、穏やかに言った。
真田は無言のまま、深深と頭を下げた。



「まるで、神から遣わされた、者のようだと、思うね」
楠瀬の穏やかな言葉に、金城は楠瀬の横顔を見た。
もう隊長の任を降りることが決まってから、楠瀬の口調は至極穏やかになった。
「真田、ですか?」
「ああ。要救助者を救えないことがない。それは怖いとは思うが、だがここまで続くなら、それはまた才能だね。神から遣わされた、もののふだよ」
「もののふ……」
隊長の拝命を受けても、ほとんど表情を変えることなく受諾した真田。
それはかつて日本にいたという、もののふのようで。
金城は思わず苦笑する。
「さしずめ、神兵ですか?」
「なんだか巨神兵みたいだね」
「……ナウシカですか……」
結局ありきたりなオチになって、二人の隊長は苦笑する。
だがこのとき交わされた言葉が、『神兵』真田甚の伝説を彩ることになる。




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