かぱ。
嶋本が恐る恐る開いた重箱を、数人の隊員が覗き込み歓声を上げる。
「すげえ」
「今日はまた一段と」
そしてすぐに割り箸が一膳、二膳と伸び始め。
嶋本は慌てて重箱のふたを閉じた。
「見るだけや、言うたやないか!」
「え〜、ちょっとぐらい」
ぶーたれる隊員たちを尻目に嶋本は舌を出す。
「今日はあかん、隊長の分も一緒に拵えてくれたもんやから」
きっかけは昨日の真田の一言だった。
美味い魚の煮つけを食いたいな。
呟くような言葉に、嶋本はさとりの得意料理が和食だったことを思い出し、応えたのだ。
じゃあ、明日さとりに頼んで弁当作ってもらいましょ。魚の煮つけも入れてもらうように頼みますから。
とはいえ、嶋本はすっかり忘れていた。
今日がさとりの初出勤の日だったことを。
しかしどんなに忙しくてもさとりは頼めば作ってくれる。今朝もかなり早く起きて、重箱に弁当を詰めてくれているのを知っていたから、本当に申し訳なかったと手を合わせれば。
『いいじゃない。あたしも煮つけ食べたかったから。あ、持っていくとき気をつけていかないと、身が崩れるからね』
あたふたと出勤していくさとりを見送って、慎重に運んだ大事な大事な重箱を、嶋本はさっきロッカーでガタンと大きな音を立てて、ぶつけてしまったのだ。だから、恐る恐る覗いてみたけれど、さとりはある程度は動かしても構わないように重箱の中をいろいろな料理でびっしりと詰め込んでくれていて、まったく朝と変わりなく鎮座する重箱の料理たちに安堵した嶋本だった。
「あ、隊長」
嶋本が声をあげれば、資機材倉庫から帰ったばかりの真田が顔を挙げる。
「どうした?」
「あの、昨日言わはったでしょ、魚の煮つけ。さとりに頼んで作ってもらいましたから、どうですか?」
「そうか。では、いただこう」
差し出された箸を受け取り、行儀良く『いただきます』と一礼して、真田は箸を伸ばし、重箱の中を覗き込んだ。
「すごいな、これは」
「今日は気合入っててたみたいですわ。隊長、煮つけだけやなくて他のもんも食べてくださいね? 俺だけやったらこないに片付かんし」
「それはダメだろう。これはいわゆる、愛妻弁当というものだろう? 本来なら俺が食するのもおかしいのでは?」
嶋本は箸を咥えたまま、ぶんぶんと首を横に振って。
「そんなこと、ないですって。さとり、言うてましたもん。真田隊長に食べてもらえるんやったら、張り切って作るって」
「そうか」
「はい」
「では、いただく」
「そうしてください」
にっかりと笑って、嶋本は真田が箸を伸ばすのを見つめていた。