「嶋、受けたのか」
久しぶりに真田の驚く顔を見た気がした。
表情に乏しい自分の上司は、嶋本でないと分からないほどの微妙な変化だけで表情を見せる。
「ええ、してみますわ」
「そうか……教官はなかなか難しいらしいが」
嶋本は頷きながら、自分の服装チェックをして。
「黒岩さんにずいぶん言われました。ヒヨコの手本にならなきゃあかんから、自分にも厳しい人間がちょうどやけど…」
にままと笑って、真田の顔を覗き込んだ。
「真田隊長ほど厳しかったら、ヒヨコ死滅しますからね」
「死滅……」
「あ、違うた。全滅やった」
「……あまり変わらない気がするが」
「そうですか?」
「まあ、いい。お前に負担がかからないように、気をつけておく」
「いや、そんな……すんません」
真田は穏やかに言う。
「お前のためにも、いい経験になるだろうな」
俺、今度のヒヨコ、教えます。
『嶋本を、教官に推薦しようと思うんだ。どう思う?』
そう黒岩に相談されたのは夏だった。
それもいいと、思った。
嶋本に任せるのは、どうだろうかという意見もある。
理由は一つ。
非情になりきれるか?
その問いに、真田は答えられない。嶋本自身も答えられないだろう。任務に関しては、正しい判断が出来たとしても、それと教官の下す判断は違う。
違うのだ。
『そうだけどな、俺は嶋なら出来ると思う』
いつかの飲み会で、つぶされて眠ってしまった嶋本にコートをかける真田に、黒岩は言ったのだ。
『意思疎通、という意味じゃあ、こいつは絶品の能力を持っているし。相手の能力を分析することに長けてる。まあ、それは古藤さんの鍛えたおかげだろうけど』
『ええ…』
『なによりだ』
がははと笑いながら、黒岩はジョッキを掲げた。
『特救隊一の神兵の、バディを勤められるのが何よりの証拠だ』
「たいちょ?」
「あ、ああ。すまない。大丈夫だ、嶋本にならできるだろう」
「まあ、出来んようなら、やめてもらうからなぁ〜って黒岩さんには脅されましたけど」
俺、頑張ります。
嶋本の笑顔が、眩しかった。
真田は、小さく頷いて。
「そうか。頑張れよ」
「はい!」