荷物を置いてから、嶋本は気づいた。
部屋の空気が、暑かった。
さとりが昨日今日と、2週間に一度の2日連続の当直勤務だったことを思い出して、気温を下げるためにあちらこちらと窓を開けて、出張で使った着替えを洗濯機に放り込んで。
ようやく一息つけて、リビングのソファに座り込めば、心地よい初夏の風が嶋本の眠気を誘った。
「あかん、洗濯物……」
まるで寝言のように言ってはみたものの、嶋本の意識はそこで途切れた。
こっそりと玄関を開ければ、玄関には嶋本のスニーカーが脱ぎ捨てられていた。
さとりは思わず苦笑して、それを整えて部屋に入った。
見渡せば、開け放たれた窓からは涼しい風が入り込み。
リビングのソファで、嶋本がしどけなく眠っている様子が目に入った。
近くにあったブランケットをかけてやり、さとりは起こさないように静かに、家事を始めた。
嶋本の意識を引き戻したのは、匂いだった。
肉の焼ける、いい匂い。
続いてジュージューという音とパタパタとスリッパの音。
ゆっくりと目を開けて、嶋本は小さく深呼吸をして、ソファの上で身体を起こした。
「あ、進次。おはよう」
啄むようなキスを受けて、嶋本はぼんやりとしたまま答えを返す。
「まだ寝ぼけてる?」
「……ちょっと」
「よっぽど疲れてたんだね。あ、洗濯機ありがとうね。回してくれたから干せたよ」
「……そうか」
「お昼ご飯、食べる? お好み焼きにしたんだけど」
「……食う」
「うん。食べたら映画、行こうよ。面白い映画してるみたいやから」
さとりが覗き込みながら、嶋本にポカリのペットボトルを渡す。嶋本はそれを一口飲んで、キッチンに向かったさとりに言う。
「面白い映画?」
「うん。海猿って言ってね」
嶋本の意識が一気に覚醒する。
「海猿!」
「うん。進次は知ってるよね?」
それは漫画が原作で、若き海上保安官が潜水士となって、最後は特救隊に来る、というお話。
現在公開されているのは潜水士となるところのようで。
少し前、職場でも話題になった。わざわざ保大で撮影したらしいと。特救隊は最後の最後、名前だけしか出てこないから、撮影協力したくても多分出番はないだろうと、笑い話で終わった。
「そりゃ、知ってるけど……」
「ん? やっぱり本職としては、見たくない? 絶対美化はされてるとは思うけど」
さとりは特大のお好み焼きが乗った皿を嶋本に、普通サイズのお好み焼きが乗った皿を自分の前に置きながら、
「愛と友情の……が売りみたいだけど」
「………どちらかというと、見たい」
「そう。あたしも見たいのよ、だって呉まで行ったし、進次の潜水同期の人まで知ってるけど……訓練のことは全然知らないし」
「……そやったか?」
「うん。進次、教えてくれなかった」
「……海保が全面協力で作ってるらしいから、内容はえいかもしれんな。じゃあ、行くか」
そして嶋本はさとりが作った特大お好み焼きにかぶりつくのだった。