127 潤滑油





もしもし。


もしもし、古藤隊長……。ご無沙汰してます。


お、真田か。元気か、お前? またまた大活躍らしいな?


いや、まだまだ古藤隊長に比べたら判断が遅いです。


………そういう謙遜な仕方が、嫌味やって言われてたのを思い出したわ。


隊長。


あ?


特救隊にいた頃と喋り方が違う気がするんですが。


そりゃそうやろ。俺は関西人や。やけど、羽田におるときは一生懸命、標準語にしてたんやで?
やけど生まれ故郷に帰ってきて、ここで標準語にしてたらかえって気持ち悪いわ。
自然と関西弁に戻るわ。


そんなものですか…。


東京生まれ東京育ちのお前にはわからんよ。
だけど、そんなこと言うために、わざわざ電話してきたんやないやろ?
用件はなんや、用件は。


隊長、覚えていますか?


ん?


昔、俺に言われたこと。


………また省略機能働かせよって。
ちっとはヒントを織り交ぜて話せっちゅうねん。
嶋が通訳しとるみたいやけど、今度叩き治さなあかんな。神兵翻訳機能を世間に広げなあかんちゅうのに。


嶋本はよくやってくれていますよ。
今日もさとり先生と一緒に、非番なのに俺の身体を気にして覗きに来ました。


………真田。


はい。


体って、何かあったんか?


ええ、少し。
気化したガソリン吸い込んで、意識レベルが低下しました。


………佐世保でなんやあったちゅうのは、お前のことか。
相変わらず、無茶をする。


そうですね。
それで嶋に怒られました。
それで思い出しました。
昔、隊長が俺に言ったことを。
覚えて、ますか?


………お前が潜水同期の見舞いから帰って、俺に聞いたんだな。
俺は確か言った。
こうあるべき、では世界は回らない。救助もだ。そこに潤滑油として必要なものはなんだか、わかるか?
だったか?


ええ。


電話してきたってことは、答えを見つけたんだな。


今日、さとり先生の診察を受けました。
さとり先生が、聴診器を暖めていたんです。
小児科ではそうするのだと。
小さな子どもには僅かな冷たさも過度の刺激になる時がある、と。
それで、宿題の答えがわかりました。
潤滑油として必要なのは、優しさ、思いやり、ですか。


……答えを出すのに4年、か。


正解ですか。


俺の望んだ答えは、そうだ。
その答えがわかったってことは、お前も少しは人間らしくなったというべきやろうな。


そう、ですか?


まあ、人間らしくというより、相手の気持ちを知ることは大事なことや。
お前のためにも、周りのためにも、要救助者のためにも。
大事なことやで。


はい。
ありがとう、ございます。




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