129 にわとりたち





「10管は面白いのが来るぞ」
基地に帰って来るなり、真田は嶋本を捕まえて言った。
さすがの翻訳機能も不意をつかれて、一瞬起動が遅れた。
「えっと……あ、10管って」
思い出した。
一昨日、出動で沖縄に向かった。そのために真田が出席を予定していた福岡の競技会に間に合わない可能性が出てきた。仕方なく、というより嶋本のアイディアで3隊の他の隊員たちは羽田に帰るために福岡基地に向かい、その途中で真田がヘリから直接降下することにしたのだ。
福岡の競技会は7管と10管、合同で行われたはずだから……。
「競技会で優勝したのは、10管の人間っすか?」
「そうだ」
「どんなんすか?」
「消防あがりの………名前はなんと言ったかな……」
「消防?」



ひよこたちが来る。
そのために、嶋本は準備に追われていた。
初めての教官ということもあって、要領が分からず頭を抱えることもしばしばだったけれど、
「嶋! 防災基地にスケジュールの確認しとけよ〜」
「え? それは黒岩さんの仕事じゃないですか!」
「そういうのは教官の仕事」
「うわ、ひど! 黒岩さんも教官じゃないすか!」
ぎゃいぎゃいと黒岩に噛み付く元気はいまだ残っていて。
「あ、これや。隊長が言うてはったこと」



毎年、そう今時分。
それぞれの管区、あるいは合同で競技会が行われる。
その中で優勝者が、いかにも管区の代表者、もっとも優れた者という自信満々の表情でここ、羽田特殊救難基地の門をくぐって……。
「………み〜んな、けちょんけちょんにされてしまうんやなぁ」
「何言ってんのよ。そういうもんでしょ。天狗の鼻は折るに限る」
けらけらと笑う一ノ宮の横顔が、怖かった。
嶋本は小さく溜息をついて、既に終わった管区の競技会優勝者の名前を書類の中に確認する。
「1管は……佐藤貴充? 2管は該当者なしかい……」
「今年は何人来るの?」
一ノ宮が黒岩に聞けば、黒岩も肩を竦めて。
「さあなぁ……どうにも出来が悪すぎて該当者なしになってるところもあれば、豊作すぎて優勝者以外もって、基地長は仰ってたけど」
「お? そりゃ期待できるかもね」
まず第一条件は、管区別の競技会での優勝。だが優秀な成績を収めていれば、しかるべき部署のしかるべき専門官たちの話し合いで特救隊への道が開けることがある。
だがそれは本当に稀なことで。
どんなひよこが来るのか、にわとりたちはいろんな意味でてぐすね引いて待っている。
「あ、こいつや」
嶋本の独り言に黒岩が反応する。
「ん?」
「え、あの、真田隊長が言うてはったんですよ。10管は面白いのが来るって。消防あがりだって」
「消防あがり? 名前は?」
「えっと……」
通りがかった押尾も嶋本が見ていた書類を覗き込んで。
「石井……ばん?」
「変わった名前やな……」
「ま、可愛いひよこだからな。嶋本、可愛がってやりなよ」
押尾の言葉に嶋本は苦笑してから。
「そうっすね。可愛がってやらんと」




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