「正直、やっぱり、寂しいですよ?」
「珍しいな、本音じゃないか」
「あたりまえじゃないですか。俺の場合、明らかに俺が捕まえた嫁さんなんだから」
「そういうのは……恋女房というのか?」
「あ、隊長。えい言葉知ってますね」
にへらと笑う嶋本は、明らかに普段の酒量を越えていた。
「ここまでつぶれる嶋は、久しぶりに見ましたね」
「ああ。疲れているのだろう」
真田は自分の背中でしどけなく眠る嶋本の、少しばかり落ちかけた身体を軽く抱えなおす。高嶺が嶋本の顔を覗き込みながら、
「隊長、代わりましょうか?」
「いや、いい」
「………それにしても」
高嶺が嶋本の頬をつつんと指先でつつけば、口の中で何かむにゃむにゃと呟いて、嶋本は眠ったまま、にまにまと笑う。
「………なんか夢でも見てるんですかね?」
「そうだろう。今日はずいぶんと荒れていたからな」
「え?」
「さとり先生の研修、明後日出発だそうだ。それで寂しい、のだそうだ」
高嶺が数回瞬きして。
「そんなこと、嶋、言ったんですか?」
「ん? ああ、そう聞いた」
珍しい、嶋本の愚痴だった。
それもそんな話を一番しそうにない相手の、真田に。
高嶺はしかし、すぐに立ち直って溜息を吐く。
「5ヶ月、でしたっけ?」
「ニューヨーク、だそうだ。時差は14時間。日本のほうが早い。完全に昼夜逆転するらしい」
淡々と注げた真田だったが、やがて。
「嶋本が言っていた」
「え?」
「寂しいけれど、会えない時間も大切だと」
俺ら、潜水研修から始まって、俺の特救隊入りとかで、遠距離なときが結構あったんで。
なんとなく分かるんですよ。
会えない時間も、必要やし、大切なんだって。
毎日焼肉やったら、しんどいけど、週一くらいやったら美味しいっでしょ?
会えん時がお互いの気持ちを育てるって言うか……うん、強うするんですよ。
「……焼肉を味わうために、時間が必要らしい」
「………………………はい?」
高嶺が思わず動きを止めた。
さすがにこれは理解できない。
ずっしりと重たさを増した嶋本の身体を再び抱えなおして、真田は言う。
「会えない時間が、お互いの気持ちを強くするのだそうだ」
「………………それなら分かります」
「きっと嶋本にとっては」
真田は自分の肩越しに嶋本を覗き込んだ。
「少しばかり、辛い時かな」