132 輝く星





すっかり醒めた酒気を感じながら、真田は夜空を見上げた。
都会のネオンに押されて、ほとんど見えない星。
その中で、たった一つ、晧晧と輝く星を見つけて、真田は呟く。
「……われわれに出来ること、か」
「隊長に珍しく、安請け合いでしたね」
同じように夜空を見上げていた高嶺が苦笑する。真田は憮然とした表情で自分より幾分背の高い高嶺を見上げた。
「ではなんと言えばいい。そんなことはできない、と?」
「いや、そうじゃなく」
高嶺はしばらく答えを探して、視線を中空に漂わせた。
「なんかもっと、言うのかなと思っていたので」
「………たとえば?」
「むしろ、引き止めるかと。嶋の仕事に差し支えるような…」
「それは違う」
強い口調で切り返して、真田は息を吐いた。
醒めたつもりでも、自分の吐息はアルコールくさかった。
「確かにレスキューする上で、自分のバディである嶋本の状態が万全でないのは好ましくない。だが、この場合、さとり先生の気持ちがわかるから……俺が言うべきことでもない」
高嶺が一瞬瞠目して。
僅かに目を伏せながら、苦笑する。
「………隊長、なんだか」
「ん?」
「性格、少し変わりましたね。なんだか……」
「なんだ?」
「人間っぽくなりました」
高嶺の言葉に、真田は一瞬言葉を喪って。
小さな声で呟いた。
「高嶺にまで、ロボット扱いされていたのか……」
「むしろ真田隊長ロボット説は、特救隊での定説ですよ」
「…………誉められている気分ではない」
真田の、おそらくは嶋本しか理解できないだろう不可思議な答えに、高嶺は静かに、至極平凡に応えた。
「誰も誉めてないと思いますよ?」



夢を見ているのだろう。
幸せそうな顔で。
むにゃむにゃと口内で呟きながら、にへらと笑って掛け布団にしがみつく。
嶋本の肌蹴た布団を治して、さとりは幸せそうな嶋本の横顔を見る。
「なんの夢を見てるのかなぁ……」
頬をつつんとタップすれば、一層微笑んで。
さとりはそんな嶋本を微笑みながら見つめて、小さな声で囁いた。
「ごめんね」
「でも、あたし、行って来る」
「これはあたしのわがままだって分かってる」
「少しの間、寂しい思いをさせるけど」
「ごめん、ね」
「必ず……かえってくるから」
そしてさとりは深く深く溜息を吐いて。
「帰って来るからね」



「高嶺」
「はい?」
「うちに来ないか? ビールくらいは冷えている」
「そう、ですね。飲みなおしましょうか」
「ああ」
歩き始めた真田は、先ほどまで見上げた星がネオンに負けずに輝く姿を再び見つけて小さく微笑んだ。
「隊長?」
「ああ、今行く」




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