139 顔合わせ





たとえば身長のことでなんか言われても、それは仕方ないからね。
………黙って受け流せるのも大人の証拠なんだけどなぁ。
ふとさとりのメールを思い出した。
初対面で、思わず驚かれる嶋本の身長。
何度かケンカの原因になったことは、否定しない。
だが、今日だけは穏便に、受け流そう。
そう決めた。
今日は、新しい日。
始まりの日、だから。



ロッカールームの鏡で、自分だけの容儀点検をする。
通り過ぎていく隊員がそれぞれ声をかけてくれる。
「嶋〜、今日からやなぁ?」
「はい」
「今年はちっとましなのがいればえいなぁ」
「ほんまですわ」
「がんばれよ〜」
嶋本はにっかりと笑って、
「もちろんですよ!」
と答えた。



総エプロンの声で駆け出せば、オレンジと紺の制服に交じって、僅かなスーツ姿が見受けられた。
それが、ひよこだった。
専門官に促されるままに、わたわたと整列している。
それぞれの個人的な履歴書はとっくに頭にインプット済みだ。
だが。
緊張した表情で並んでいるのは、5人。
「あれ?」
「おいおい、初日から遅刻か?」
がははと笑う黒岩に、「笑い事やないですって!」と嶋本が吼える傍で、真田が整列している一人に声をかけていた。
どうやら一人足りない理由を聞いているようだが、答えは要領を得ない。
嶋本は内心で、真田に溜息をついた。
「隊長〜」
「ひよこのことをひよこに聞くだけ、無駄ってことをいいかげん、真田には学習してもらわないとなぁ。おい、嶋。それくらい、あのロボットにインプットしておけよ」
黒岩の言葉に、嶋本は白い視線を向ける。
「あの人に、何言うてもあかんことわかってて、そういうこと、言います?」
「真田専門通訳のお前に、言ってるんだよ。し、ま」
「………」
どうやら、3隊副隊長、ひよこの教官の上に、相変わらず真田通訳もしなくてはいけないことが判明して、嶋本は全身で溜息をついた。
「………………俺、とんでもない、激務やんか」



「お〜い、軍曹」
黒岩の声で、足を踏み出せば。
明らかにひよこたちの視線が下向きになった。
表情が変わる。
嶋本は笑った。
「今、え?て思うたやつ、あとで覚えとけよ」



今日だけは、穏便に。
さとりが、言うたから。
だけど。
明日からは許さん。
覚えとけ、ひよこども。




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