「できたよ〜」
次々と並べられる食事を前に、盤が深い溜息を吐いた。
「……今日もカレーとね」
「え? だって、カレーを食べたいって言ったのはメグルでしょ?」
にこにこ。
カレーまみれのお玉を片手にしたまま、部屋の主である基が笑顔で盤にカレー皿を差し出す。
「言うたけど、まさかこげに大量に作るって誰が思うと!」
盤がびしりと指差す先には、一人暮らしにはあまりにもそぐわない大きさの寸胴鍋が鎮座していた。
基はそこからカレーをよそいながら、相変わらずの笑顔のまま、
「だってカレーは大量に作るものでしょ?」
「いや………限度越えてると俺は思うぞ?」はタカミツ。
「ちいと多い気は、俺もする」は大羽。
しかし。
「ん? カレーは煮込めば煮込むほど、美味いよね? 星野くん、すごいよね。カレーのためだけに、こんなお鍋持ってるなんて」
たった一人、兵悟だけがいかにも幸せそうにもぎゅもぎゅとカレーを平らげていく。
タカミツが呆気に取られながら、
「兵悟」
「ん?」
「お前、気にならんのか?」
「へ?」
大羽も参加する。
「ここ3日もカレーだぞ。ず〜っとカレーなんやぞ?」
「うん」
もぎゅもぎゅと、食べ急ぎながら兵悟が言う。
「だってカレーって1週間メニューじゃないの?」
「……………は?」
「うちじゃあそうだったよ。姉さんがそう言ってた。カレーは最初の日からどんどん味が変わるけど、どんどん美味しくなるもんだから、1週間食べても飽きないって。星野くん、おかわり!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
硬直してしまった盤、タカミツ、大羽の脳裏には、同じ言葉が浮かんでいる。
兵悟、お前、それはだまされてるぞ。
「うちは大家族だから、もっと大きいお鍋で作るけどね」
「へえ、これより大きな寸胴鍋か。それはさすがに無理だね」
「よく考えたら、うちの人間よりもこの6人は食べれる人間ばっかりだから、1週間はもたないね」
「明日にはなくなるね。少しインターバル明けるけど、また作るから」
「うん!」
満面の笑みの、兵悟と基。
盤が小さく呟いた。
「カレーに殺される日が来るとね……」
「ああ」
「…………肉は牛より豚ブロックがいいとね」
「なんだよ、そりゃ」
「我が家の味、たい」