142 結婚してます





「なあ、軍曹に彼女いると思うか?」
それは突然の問いかけだった。
一瞬沈黙した部屋に、次に舞い降りたのは苦笑。



きっかけは休憩中に嶋本の携帯にかかってきた電話。
かつて救助した子どもが無事に退院したことを報告する母親からの電話だったのが、本当に嬉しそうに電話に対応する嶋本の横顔を見て、大羽はふと思ったのだ。
それを夜の星野邸会合でご披露したのだが。
タカミツと盤は肩を震わせているし、兵悟は混乱したように周りを伺っている。
「な、なんだ。そんなおかしいか?」
「おかしか。大羽くん、あの軍曹に? 彼女? ありえん」
「そうだ、絶対にありえんな」
「え、え? そうなの? 軍曹って、彼女いないの?」
「兵悟、よぉく考えてみろ。あの小さな小さな軍曹に、つりあうような彼女は」
「なかなか天然記念物ものじゃなかね?」
「う〜ん……」
「そんなことわからんやないか」
大羽は眉を顰めて言う。
「いや、その、別に庇うつもりはないんやけどな。おってもおかしうない年頃やないか?」
「あのな〜、大羽くん。年頃の問題じゃなかよ」
「う……」
なんだか言い負かされた気分になった大羽に、意外なところから救いの手が伸ばされた。
「なんだ、そんなこと」
キッチンにいた星野がマグカップを片手に、パソコンに向かう。
今度は盤が眉を顰めた。
「そげなこつって、なんね」
「あのさ」
椅子に座った星野は首だけで振り返り。
「みんな、3管に来たことないから知らないだけだよ」
「あ?」



軍曹って、結婚してるからね。



あまりにも長すぎる沈黙に、今度は星野が眉を顰めて辺りを見回す。
「なに」
「………………星野」
「ん?」
「今の、話」
「軍曹が既婚者だってこと?」
「マジなの?」
「うん。だって俺、奥さんに会ったことあるもん」



沸き起こった悲鳴のような怒号に、翌日、星野が隣近所に怒られたのは仕方ない話だった。




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