He is very pretty!
Is it your younger brother?
He is how old?
I think that he is really pretty.
All which do not think so?
Oh, he is really pretty.
Excuse me, not a younger brother, he is my husband.
それは絶句だった。
同じERに勤務するスタッフドクターや看護師たちが一様に押し黙ったので、さとりは内心だけで溜息をつく。
それはある日の午後。
家族のことが話題に上って、そういえばと一人のスタッフがちょうど休憩に帰ってきたさとりをつかまえて、
「君の旦那さん、メディックやってんだって?」
「……少し違いますけど、海難救助が専門ですね」
そんな受け答えをしていると、写真はないのかといわれて、差し出した写真。
日本を発つ少し前に、嶋本とさとり、仲良く笑顔で収まっている写真だった。確か八景島シーパラダイスに行った時の写真で、嶋本がえらくはしゃいでいて、スタッフにデジカメを渡し、
『はい、バター』
少しだけさとりの笑顔が硬いのは、嶋本の寒いダジャレに硬直してしまったからだ。
そんな写真を、促されて差し出して『oh,very pretty!』の声に、さとりは素直に応えたのだ。
それが夫だと。
「……さとり?」
「はい?」
「これが、旦那さん?」
「はい。私と同い年ですよ」
「………さとりも童顔だけど、ご主人、一層童顔なのね」
外国人からすれば、さとりの容貌は幼く見えるようだ。
入国したときも、税関でずいぶんしつこく年齢の確認をされた。だから、嶋本が外国へ入国するとき、どれほど審査を厳密にされるだろうと思うと、なかなか二人で外国にいけないなと、ぼんやりと思ったから覚えているのだ。
それにしても、一層童顔とは。
「見えないですか?」
「……見えないわね、30歳越えてるなんて」
そういわれれば、愛想笑いしか出来ない。
「そう、ですか?」
「あ、でも」
二人して若く見えるから、羨ましいわね。
慌てて付け足された言葉にさとりは苦笑する。
賛同する声の中に、たった一つ、違う声があがった。
「随分と小柄な旦那さんだけど……本当にメディックの仕事、できるの?」
その言葉に、さとりは静かに言う。
「………体格で、できることは制限されることもあるけれど……だからこそ、できることもあるんじゃないですか?」
「……そうかな」
軍生活の経験があるその医師は、さとりに写真を返しながら、
「適正というものがあると思うけどね」
「ええ、もちろん。でも」
それでも、進次は。
したいことと。
できることが、一致して。
認められているから、あそこにいるのだ。
わずかな海上保安官の中でも、本当に僅かな人数、海難救助のプロとして。
さとりの言葉に、医師は一瞬答えを失ったけれど。
「………それは、幸運なことだね」
「幸運?」
「そうだよ、したいこととできることと、認められることが全て一致するなんて、本当に少ないんだ。それは幸運なことだよ」
君も、だね。
穏やかに告げられて、さとりは微笑む。
そうだ、自分も幸運に恵まれている。
そのことを、忘れずにいよう、と。
さとりは思う。